移動サービスをつなぐ「MaaS」とは|意味や具体例をわかりやすく解説
マイカー、自家用車の保有にはお金がかかり、家計を圧迫する要素となることがあります。自動車自体の価格も安くはなく、保有し続けることで車検やガソリンなど維持費がかかってきます。「移動」をどう最適化するか、それは社会にとっても家計にとっても、ひとつの大きな課題といえるでしょう。そんな問題を解決してくれそうなのが「MaaS」。ICTの発達とともに登場した、移動サービスに関する新しい概念です。ここではMaaSについて、具体例も用いてよりわかりやすく解説していきます。
MaaSの意味
MaaSとは、公共交通機関など複数の移動サービスを組み合わせ、全体を1つのサービスとして検索・予約・決済などができるようにしたものです。移動手段に自家用車は含まれません。マイカーを使わないようにすることを、MaaSのひとつの目的と考えることもあります。サービスの提供においては、クラウドなどのICT(情報通信技術)を活用します。MaaSは、「Mobility as a Service」を略したものです。読み方は「マース」。直訳すると、「サービスとしての移動手段」となります。
人は地域での移動や旅行において、さまざまな移動手段を利用します。ある出発地から目的地までを考えてみましょう。自家用車を除くと、鉄道やバス、タクシー、旅客船、飛行機などの移動手段が思い浮かびます。最近ではカーシェアリングやシェアサイクルなども利用できます。MaaSを利用するとこれらを最適に組み合わせ、一括して検索・予約・決済などができるのです。バラバラに存在していた移動手段が、まるで1つのサービスであるかのように利用できます。
ICTの普及とともに、MaaSのような数多くの「~aaS」といった名称が登場しています。これは、パソコンやスマートフォンなどを使い、インターネット経由でサービスが提供されるものを指しています。
MaaSの場合、MはMobilityです。このほかにも、例えば「GaaS(Games as a Service)」があります。ゲームがストリーミング形式で配信され、定期的にアップデートされるというものです。また「LaaS(Logistics as a Service)」は「サービスとしての物流」。AIやIoT(Internet of Things)を活用した、輸送の効率化を提供します。
MaaSの誕生はフィンランド
MaaSを提供するプラットフォームとして、最も知られているもののひとつが「Whim(ウィム)」です。これはMaaS Global社のMaaSアプリで、2016年に運用がスタートし、フィンランドで使われ始めました。MaaSの概念が誕生したのは、さらにさかのぼって2012年のフィンランド。「複数の交通モードのパッケージ化」というアイデアとともに、MaaSという言葉が提案されました。提案した人物はのちにMaaS Global社のCEOとなっています。
Whimアプリでは、どのようなことができるのかを見てみましょう。公共交通機関やタクシーなどの移動手段は、「交通モード」と呼ばれています。アプリではまず、数多くある交通モードの中から利用したいものを選択。目的地を入力すると、最適なルートを提案してくれます。ルート候補の中から選択すると、すぐに利用を開始することが可能です。料金はアプリ上で利用量に応じた精算ができて、月額プランも用意されています。スムーズな乗り継ぎやシンプルな決済、といった利便性が体験できるのです。
Whimの導入により、フィンランドではどのようなことが起こったでしょうか。2017年に、首都ヘルシンキで利用者に対する調査が行われています。Whimの使用開始前後の数字を比較してみましょう。それによると、Whimユーザーの自家用車利用は40%から20%へと減少し、公共交通機関の利用は48%から74%へと増加しました。MaaSの導入が社会を大きく変える可能性があることを示しています。
MaaS実現で変わること
MaaSが実現すると、どのように移動が便利になるのでしょうか。例えばスマホアプリに目的地を入力すると、さまざまな移動手段を組み合わせた最適なルートが示されます。そのままシームレスに予約・決済もアプリ上で実行でき、すぐに目的地への移動を始めることができるのです。先行してMaaSが実現しているフィンランドの例では、自家用車の利用が減る一方で、公共交通機関の利用が増えるという変化が起こりました。MaaSの実現によって期待できる変化について見てみましょう。
自家用車の利用が減り、既存の公共交通機関の利用が増えることは、都市部での渋滞の緩和につながり、二酸化炭素の排出削減による環境への良い影響が期待できそうです。また、地方においては、利便性が高いMaaSの実現によって人々の外出機会が増加すると考えられます。移動インフラのさらなる充実も必要ですが、地方経済の活性化が期待されています。
MaaSは、クラウドやスマートフォン、インターネットなどICTによって実現するものです。今後、同様のデジタルデータを扱う観光や物流、医療・福祉、小売りといった業界との連携が広がり、地域や観光地における移動の利便性が高まることが予想できます。行動履歴のデータなどから提案される最適ルートが、より個人にフィットしたものになるでしょう。MaaSは、スマートシティ実現の基盤ともいえるサービスです。
MaaSの現状
MaaSについては、現状のレベルを5つの段階に分類する考え方があります。それぞれの段階は次のようになっています。
- レベル0:交通手段がそれぞれ独立して、分離している状態
- レベル1:さまざまな交通手段の料金や経路について、一元化された情報が利用できる状態
- レベル2:さまざまな交通手段の予約・決済が、アプリなどを使って一括して利用できる状態
- レベル3:さまざまな移動手段が1つのパッケージとして提供され、定額制などが利用できる状態
- レベル4:都市計画やインフラ整備がMaaSと一体のものとして立案される状態
例えば、さまざまな交通手段を対象とした乗り換え情報やルート検索ができるアプリがあれば、レベル1が実現しているといえるでしょう。レベル2については、交通系ICカードが多くの交通手段の決済に対応していることから、これにより部分的に実現していると考えることもできます。ただ、レベル3や4の実現となると、難しい課題もあるようです。
利用料金については、サブスクリプションのような定額制の移動サービスができると便利だと考えられます。しかし、公共交通機関の料金にはさまざまな規制が存在し、柔軟な価格設定には対応できない状態です。
また、解決しなければならない問題となっているのが、データの利用方法。データの連携にはデータ形式やAPI仕様の標準化が必要となるのと同時に、個人情報を扱う際のルールの作成も重要です。
さらに、地方では公共交通機関の利便性が低く、自家用車に頼った社会が出来上がっている地域もあります。そこでは移動手段の確保が最初の問題になっています。
このように、日本でもMaaSは部分的に実現しているものの、さらに高いレベルで実現するには、法律やルール、インフラの整備が必要です。
国内外のMaaS事例5選
ドイツのMaaS「moovel」
ドイツではメルセデスベンツグループ傘下のmoovelが、MaaSプラットフォームを提供しています。交通サービス利用者向けと交通事業者向けがあり、合わせて3種類のサービスを提供しています。交通サービス利用者向けのアプリでは、複数交通モードに対応した経路検索と予約・決済が可能です。対応している交通モードは、カーシェアやタクシー配車、鉄道、公共交通機関などです。
高齢化や過疎に対応したMaaS
日本では地域の社会的な課題を解決すべく、特徴あるMaaSを各地で実験しています。4つの地域を見ていきましょう。まずは北海道の芽室町。こちらは高齢化と過疎に対応したMaaSです。Webサービス上で、乗合型オンデマンドタクシーの予約ができ、車内から買い物の注文も可能です。交通と買い物はキャッシュレス決済に対応。サブスクリプション型の料金体系を採用しています。
大都市の交通情報を可視化するMaaS
東京の大手町・丸の内・有楽町は、商業店舗やワークスペースが多数存在する地域。ここでは交通や移動に関するさまざまな情報を統合したサービスが移動を助けてくれます。交通運行情報や混雑情報をWeb上で公開し、人々の移動をより効率的にしています。対象となっている交通モードは、エリア内循環バスやシェアバイク、鉄道などです。
Universal MaaSのコンセプトを実現
社会には、さまざまな理由により外出を躊躇している人々が存在します。こうした社会的課題を解決するため、鉄道・航空・タクシーなどを利用する広い範囲を対象とした実証実験が進められています。サービスでは、オンライン一括介助手配やリアルタイムバリアフリー地図・ナビが利用可能です。
箱根観光を便利にするMaaS
観光中はさまざまな移動手段を利用するため、チケットの購入などで手間がかかる部分もありました。こうした手間がMaaSアプリの導入により、ワンストップで済むようになります。電子チケットに対応するのは、ケーブルカーや路線バス、ロープウェイ、観光船など。アプリではシェアサイクルやタクシーの情報も提供します。
移動も決済もスマートにしよう
MaaSはさまざまな交通モードを組み合わせ、ルートの検索・予約・決済を可能にしてくれます。自家用車を使わなくても、ネットやクラウド、スマホアプリなどを使ったサービスにより、利便性の高い移動ができるのです。これまでになかったスマートな移動を体験できるでしょう。ここで大きな役割を果たしているのがキャッシュレス決済。支払いもアプリ上でできるため、窓口などでの支払いをしなくて済み、スマートな移動に貢献しています。
MaaSでは、データの活用も利便性を高めるための重要な要素。多くの人々がキャッシュレス決済を利用することで、ビッグデータが生まれます。利用した交通モードやかかった料金などのデータの蓄積は、サービスの改善などに役立てられる可能性もあります。データの蓄積とともに、よりスマートな社会が実現していくでしょう。
このテーマに関する気になるポイント!
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MaaSの意味は?
公共交通機関など複数の移動サービスを組み合わせ、全体を1つのサービスとして検索・予約・決済などができるようにしたものです。
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MaaSはどこで誕生した?
2012年にフィンランドでMaaSの概念が提唱され、2016年からMaaSアプリ「Whim(ウィム)」が運用されています。
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MaaS実現で変わることは?
自家用車の利用が減り、公共交通機関の利用が増えます。渋滞が減るなど、環境の改善も進むでしょう。
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MaaSの現状は?
さまざまな国や地域で導入が進んでいます。データの取り扱いや料金体系に関する法的問題の解決、インフラの整備などが必要です。
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国内外のMaaS事例は?
混雑する大都市、高齢化が進む過疎地、多くの移動手段が提供されている観光地などで、移動を便利にするサービスが導入されています。
※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。
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なるほど。自家用車にもメリットはあるけれど、人によっては便利なサービスね。MaaSがもっと普及すれば、渋滞はもちろん交通事故も減るかもしれないわ。