身辺整理とは、身の回りの仕分けをし、整理することです。仕分けと聞くと大変な作業に感じてしまいがちですが、不要な物の処分や片付けの延長線上と捉えましょう。これまでの人生で増えたたくさんの物やデータなどを見直して、必要・不要を決定していきます。

身辺整理で仕分けの対象となるのは、物・情報・人間関係・財産など、身の回りのものすべてです。今後に必要なものだけを残して生活環境を整えることにより、これからの人生を新しい気持ちで歩めるでしょう。

身辺整理は終活のひとつでもあります。終活とは「人生の終わりのための活動」の略語です。人生の最期を迎えるにあたり、これまでの自分の人生を総括する活動を意味し、以下の2点の目的から終活に積極的に取り組む人が増えています。

●残された家族に迷惑がかからないようにするため
●過去の自分を見つめ直し、残りの人生を充実させて自分らしく生きるため

例えば、生前に財産を整理して誰が何を相続するかを決めておけば、残された家族間のトラブルを減らせます。また、客観的に自分を振り返ることで、残りの人生で本当にやりたかったことを見つけられる場合もあるでしょう。

終活は、自分が元気なうちに老後の生活や死後の不安を取り除き、残りの人生をよりよい時間とするために行う準備です。具体的には、身辺整理、遺言書の作成、葬儀やお墓の意向決定などがあります。

そもそも身辺整理をすることでどのような効果が得られるのでしょうか。身辺整理をする理由には、主に以下の2つがあります。

●本当に必要なものを知るため
●家族に迷惑をかけないため

これらについて、ひとつずつ解説していきましょう。

・本当に必要なものを知るため
身辺整理は、生活環境の向上につながる行動です。今後の生活に必要なものと不要なものを仕分けることで、物理的にも精神的にもスッキリし、新しい気持ちに切り替えられます。
身辺整理では、不要なものを処分することにより自分の現状がわかり、今後の生活のために必要なものがおのずと見えてきます。

・家族に迷惑をかけないため
自分にもしものことが起こった場合、遺品整理や相続の手続きなど、残された家族にかかる負担は非常に大きいものです。身辺整理がされていなければその負担は一層大きく、悲しみに暮れる家族にさらなる負担をかけることにもなりかねません。

残された家族の負担を少しでも軽減させるためには、身体が元気で判断力もあるうちに身辺整理をしておくことが重要です。

終活や身辺整理を始めるタイミングはさまざまです。しかし、先延ばしにしてしまうと体力や判断力が落ちてしまう可能性があるため、以下のような人生の区切りを目安に始めるのがよいでしょう。

●定年退職をしたとき
●子供が就職や結婚で家を出たとき
●自宅の改装や引っ越しのとき

なかでも、多いのが定年退職をしたタイミングです。仕事が一段落して時間が十分に確保できる状態で終活や身辺整理を始めると、気持ちもリセットできてこれからの自分の人生に向き合いやすくなるでしょう。

また、終活や身辺整理を普段の片付けの延長線上に考えて、少しずつ始めていくのもおすすめです。身の回りの不用品を処分したり、自分の財産を確認したりといった作業はいつからでも始められるものです。

身辺整理は自分にかかわるすべてのものが対象となります。主なものとして、以下のようなものがあげられるでしょう。

●資産・財産
●パスワードなどのログイン情報
●自分に関する重要書類
●人間関係

上記について、整理の方法を詳しく解説していきます。

・資産・財産
自分が死亡したあとの相続関係でトラブルにならないよう、資産・財産は表などで記録をしておくのがおすすめです。記録をするときは、金額・相続する人・連絡先などをまとめておきます。

個人が持つ資産は主に金融資産と実物資産に分けられます。
金融資産とは現金や株式などの有価証券のこと、実物資産とは土地・建物など形があるもののことをいいます。それぞれの内容は以下のとおりです。

個人が持つ資産・財産は相続トラブルにつながりやすいため、生前にすべて確認し、誰にどの資産を相続させるかまで意向を固めておくと安心です。

・パスワードなどのログイン情報
現物ばかりに気を取られてしまいがちですが、ネット上の情報も忘れずに整理しておかなければなりません。さまざまなWebサイトなどにログインするときに使うID・パスワードなどは、一覧にして重要書類と一緒に保管しておきましょう。

特に忘れずに整理しておきたいのが以下の情報です。

●ネット銀行の口座情報
●クレジットカードアプリのログイン情報やカード番号
●証券会社等のログイン情報
●SNSアカウントのログイン情報
●年会費などが自動発生するサブスクリプションサービスのログイン情報

銀行やクレジットカードをネット上で管理している場合は、ログイン情報を忘れず家族に伝えられる形で残しておきましょう。また、SNSアカウントも放っておくと乗っ取りの被害や詐欺などに巻き込まれる可能性があります。身辺整理時に不要なSNSは削除し、必要なSNSについてはログイン情報を控えておきましょう。

銀行の凍結手続きや、SNSアカウントの消去などは残された家族が行うことになるため、情報は家族にとってわかりやすい場所にまとめておくとスムーズに手続きができます。

・自分に関する重要書類
自分に関する重要書類は、死亡後のさまざまな手続きに備えて、取り出しやすい場所に保管して家族にも保管場所を伝えておくと安心です。書類は身辺整理をしている際に誤って捨ててしまうことのないよう、慎重に取り扱いましょう。

自分に関する重要書類には、以下のようなものがあげられます。

●身分証明書
●保険証
●年金手帳
●預金通帳
●水道光熱費の登録情報
●インターネットの契約情報
●習い事等の申込情報

手続きはすべて家族が行うこととなるため、ファイルなどを利用してわかりやすくまとめておくとスムーズに進みます。ほかにも個人的に大切にしている手紙や写真などは、重要書類と一緒に保管しておくと家族に見つけてもらいやすくなるでしょう。

・人間関係
身辺整理は「物」だけではなく「人間関係」も対象です。残りの人生を豊かに過ごすために、一緒にいたいと思う人の連絡先やSNSだけを残したりすることも身辺整理のひとつといえます。久しく会っていなかった友人やお世話になった人のもとへ行き、近況報告や昔の思い出を語り合えば充実した時間を過ごすことができるでしょう。

人間関係の整理は難しいものです。そのため、無理に整理をする必要はありません。その場合は、少なくとも家族に伝えておくべき人をリスト化しておくようにしましょう。例えば、自分にもしものことが起こったときに連絡してほしい人などは、氏名と連絡先、関係性を整理してメモなどにまとめておくとよいでしょう。

身辺整理を行う際には不用品の買い取りや、大きなものの処分などを業者へ依頼することもあるかと思います。その際の注意点として、以下の2つがあげられます。

●悪徳業者による盗難被害や高額請求
●身辺整理中の騒音による近隣トラブル

身辺整理は新しい生活を始める第一歩となる機会です。気持ちよく取り掛かるためにも上記の2点は重要なポイントなので、詳しく解説していきます。

・悪徳業者による盗難被害や高額請求
身辺整理を業者に依頼する場合は、必ず複数の業者から見積もりを取ったり評判を調べたりして悪徳業者でないかどうかを調べましょう。身辺整理を行う業者の中には、高価な貴重品を狙った窃盗や高額な費用を請求する悪徳業者が残念ながら存在します。

悪徳業者による被害に遭わないためには、業者選びが非常に重要です。前述のように、ホームページやSNSで口コミを確認したり、複数業者から見積もりを取ったりして比較検討をしましょう。優良業者であれば、見積時に費用の内訳を明確に記載していますし、貴重品の取り扱い方を質問したら丁寧に説明してくれるでしょう。

・身辺整理中の騒音による近隣トラブル
身辺整理で業者に依頼する場合は、大きな荷物の運び出しにトラックやクレーン車を利用する場合もあります。さらに、作業が長時間に及ぶ可能性もあるため、1日を通して騒音や公道を防ぐことによる近隣トラブルに配慮しなければなりません。

トラブルを防ぐためには、あらかじめ近隣の方へ騒音の可能性があることと、日時を伝えておきましょう。もちろん、身辺整理を行う当日もできる限り騒音に配慮しながら作業することが重要です。

身辺整理は、人生の区切りで自分を振り返るよい機会となります。特に終活における身辺整理は、もしものときでも家族に迷惑をかけないよう元気なうちに身の回りを整え、自分らしい最期を迎えるための準備です。自分の財産や思い出、意志を残された家族に伝えられるように少しずつ身辺整理を始めていきましょう。