「ダイバーシティ（Diversity）」とは、直訳すると「多様性」という意味で、国籍、性別、年齢、宗教など、様々な違いがある人たちで成り立っている環境を意味する言葉です。企業経営や人事の分野においては、多様な人材を積極的に活用していこうという考え方のことを指します。

もともとはアメリカで、女性や人種の差別を撤廃し積極的に採用していくことを目指して広がった考え方です。日本でも労働人口の減少やグローバル化、労働観の変化などを背景にダイバーシティ推進に取り組む企業が増加しています。

これからの時代の企業経営においては、いかに個性や斬新なアイデアを活かし、他企業との競争力を高められるかが重要になります。他者と同じような経営では、企業の魅力を引き出すことは困難です。

企業の中に多様な人材があれば、新しいアイデアが生まれやすくなり、イノベーションにもつながります。ニーズに対応して労働環境を整えれば従業員のモチベーションも上がり、業績の向上にも直結するでしょう。魅力的な会社になれば、優秀な人材だけでなく会社に投資をしてくれる株主も集まり、強固な組織づくりができます。ダイバーシティ経営に力を入れることは、企業の力を高める手段として有効なのです。

近年ダイバーシティという言葉をよく耳にするようになり、理解しているつもりになっていることも少なくありません。多くの人が誤解しているのが、「ダイバーシティは女性活躍に関する言葉」ということです。

このような誤解をしている企業によくあるケースが、「女性の役員数を増やす」「女性が働きやすい制度を整える」といった取り組みをして、それをダイバーシティだと捉えていることです。たしかに女性の活躍も大切ですが、それは多様性のごく一部にしか過ぎません。男性、女性と一括りにするのではなく、個々の多様な能力を活かすことが重要です。

ダイバーシティとは企業に多様な個性を持つ人材がいる環境そのものを指しますが、これに対して多様な人材を受容し活用することを「インクルージョン（受容）」といいます。本来のダイバーシティは「Diversity ＆ Inclusion」のどちらの意味も含むものであり、多様な人材を採用するだけでなく、個々の能力や経験に応じて活躍を促すことが重要になります。

従来の日本では、均質的な組織を作り、それを統制することが合理的だと捉えられてきました。今でも日本では「周囲の空気を読む」ことが重要視されていることを感じられるのではないでしょうか。このような環境になれている従業員にとって、多様性を受け入ることは簡単なことではありません。

多様な人材を採用するだけでは、単にバラバラの組織が生まれてしまうだけです。「あいつはこの仕事を分かっていない」「あいつは空気を読まない」という不満が生まれ、職場の雰囲気が悪くなってしまう可能性もあります。

企業が個々の多様性を受け入れ、その活躍を促すことで、はじめてその人が持っている能力を最大限に発揮できる体制が整います。自分が会社に受け入れられ活躍できていることを感じられれば、従業員のモチベーションも上がり、離職率を下げることにもつながるでしょう。従業員の目線で見ても、自分ができることを提案できる環境は魅力的です。