家族信託とは|家族の財産を守るために必要な知識―高齢者家族の財産保護編 (第2回)

リリース日:2021/06/14 更新日:2024/11/05

家族信託の活用方法について,具体的な事例を用いて説明します。両親の将来が心配な場合に確認しておきたい高齢者家族の財産保護編です。

家族信託とは|家族の財産を守るために必要な知識―高齢者家族の財産保護編 (第2回)
  1. 両親の将来が不安な場合
  2. 法律相談へ
  3. 家族信託契約という解決策 
  4. 税制面について  
  5. まとめ

両親の将来が不安な場合

まずは具体的事例を挙げてみましょう。

 

母親(80歳)は、夫が他界して現在、1人暮らしをしている。母親は、最近、訪問販売で高額の商品を購入してしまうなど、判断能力に不安を抱えている。母親が1人で住む自宅は、母親名義であるが、その他、目立った財産としては、母親名義の貯金が500万円程度あるだけである。今後、訪問販売での被害だけでなく、特殊詐欺等のさらに大きな被害に会わないか母親自身、心配をしている。そのため、今の生活を変えないで、長女に預貯金や自宅等の財産管理をお願いしたいと考えている。

 

また、自身の認知症が進行した場合は、遠方に住んでいる長女に迷惑をかけたくないので、自宅を売却して、その費用で特別養護老人ホームに入所することを希望している。他方で、母親自身が自力で生活できるうちは、長年住んできた自宅を離れたくはないとも考えている。
家族会議において、母親から以上のような本音を打ち明けられた長女は、母親の認知症が進行する前に、なんとか母親の希望を叶えてあげたいと思いつつ、なかなか解決策を見つけられないでいた。

法律相談へ

法律相談へ

長女は母親の問題についてアドバイスをもらうため、近隣の法律事務所へ法律相談に行った。法律事務所では、現時点で母親の認知症の進行が認められないので、成年後見人の選任はできないから、母親と長女が任意後見契約の締結をして任意後見人となることを勧められた。
長女はアドバイスを受けて任意後見契約について調べたところ、任意後見契約を締結し任意後見人になれば、母親の財産管理や身の上監護などを自身でできるようになることが分かった。しかし任意後見契約にはデメリットもあるようであった。

 

具体的には、わざわざ家庭裁判所に任意後見人の選任の申立てをしなければならないこと、任意後見人には任意後見監督人が必要であること、任意後見監督人には弁護士等の専門家が選任されることが多く、その場合、毎月1万円から2万円程度の費用がかかること、長女が任意後見人に就任した場合でも、母親は、自由に預貯金の出金等ができてしまい、詐欺被害等にあう可能性があることなどのデメリットがあることが分かった。長女は、任意後見人について調べれば調べるほど、自分が就任することにとまどいを持った…

家族信託契約という解決策 

以上の事例ように、誰にでもありうる身近な問題でも、なかなか簡単に解決することは難しいのです。

 

今回のように認知症が完全には進行していない母親が、自分の財産管理に不安を持ち、なおかつ将来のためにまとまったお金を捻出できるようにしておきたい場合には、法定後見制度や任意後見制度だけでは解決することはできません。
このような場合に、母親と長女とで家族信託契約を締結しておくことが一つの解決策となります。家族信託契約によって、当面の間は現状の預貯金を長女が管理し、いざというときには長女が自宅を売却し、母親の特別養護老人ホームへの入所費用を捻出できるようになります。

 

具体的には、下の図のように母親を委託者(財産を預ける人)兼受益者(預けられた財産から利益を得る人を)とし、長女を受託者(信託の目的に従った財産の管理・運用・処分を行う人)とする、家族信託契約を締結します。そして母親の預貯金のうち、保管しておきたい預貯金を受託者である長女が引き出して自らの口座に分別管理し、母親の自宅についても信託財産として受託者である長女の名義に変更します。

 

このように、家族信託契約を締結すれば、母親の預貯金で信託財産としたものについては、母親自身でも処分は不可能となるので、長女が長期的に保護することができます。また、母親の自宅についても、母親が特別養護老人ホームに入所する時には、本人の認知症の進行度合いに関係なく、長女が売却でき、特別養護老人ホームへの入所費用にあてることができます。なお、長女の信託財産の管理に心配がある場合は、他の家族や専門家などを信託財産監督人に選任することも可能です。

 

税制面について  

税制面について  

信託において、受益者等課税(パススルー課税)が採用されています。そのため信託の場合、受託者ではなく受益者に課税されることになりますが、今回のように委託者と受益者が同一人となっている場合(自益信託)には、信託契約及びその存続期間中に、贈与税等が課税されることはありません

自分が歳をとってくると、当然だけど同じだけ親も歳をとるのよね。早めに考えておいた方が良さそうね。なんかちょっと難しそうなところは、弁護士の先生に相談したいわ。

まとめ

ご両親が将来にどんな不安を抱えられているか、これを機会に一度話し合いをされてみてはいかがでしょうか。ご家族によって良い解決策が見つかるかもしれません。

FAQ

  1. 高齢の母親の財産を保護するための方法は?
    任意後見契約や家族信託契約を活用する方法がある。
  2. 任意後見契約で母親の財産を保護できるか?
    任意後見人になれば、母親の財産管理であったり、身の上監護ができるにようになる。ただし、任意後見人が就任しても母親自身が財産処分をすることは可能なので、母親の財産保護について不十分である。
  3. 家族信託契約で母親の財産を保護できるか?
    家族信託契約を活用すれば、一定の範囲の財産を信託財産として保護ができる。信託財産となったものについては、母親自身でも処分することはできないので、財産保護としては有用である。
  4. 母親が認知症になった場合でも、特別養護老人ホームに入所費用のために自宅を売却できるか。
    成年被後見制度や家族信託契約を活用すれば可能である。ただし、成年被後見人制度は、裁判所の関与があり、迅速な対応が難しいので、あらかじめ家族信託契約を締結しておくことをお勧めする。
  5. 家族信託を活用した場合、税制面は問題はないか。
    自益信託のスキームを組めば、ただちに税制面の問題は生じない。

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宮崎大輔
この記事を書いた人
白石綜合法律事務所 弁護士
宮崎大輔

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

2013年3月、青山学院大学法科大学院修了。同年9月、司法試験合格。2014年12月、弁護士登録し、白石綜合法律事務所入所。企業の顧問を務める関係から、企業の労務問題を得意とするほか、刑事事件や債権回収事件、金融関係事件、企業合併事件など幅広い案件を手掛けている。近年は、インターネット上の誹謗中傷問題に積極的に取り組んでいる。

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