労働+節約+貯蓄+投資の歯車を回し続ける。投資歴23年桶井道さんに聞く、FIRE達成への道筋とは

リリース日:2022/10/03 更新日:2022/12/28

「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取り、経済的自立・早期リタイアを意味するFIRE。一部の特別な人だけが実現できるものだと思っている方も少なくないのではないでしょうか。今回は、年収400万円台といういたって普通の会社員から、資産形成の試行錯誤を経て47歳でFIREを実現した桶井 道(おけいどん)さんに、資産形成術について伺います。

プロフィールイラスト:西田ヒロコ

  1. 47歳でFIRE達成!桶井 道さんの今の生活とは
  2. 25歳から先取り投資を開始
  3. FIRE前の懸念は心配無用でした
  4. 好き嫌いで判断できること・親孝行できることがFIREの良さ

47歳でFIRE達成!桶井 道さんの今の生活とは

マネ活編集部:今回は、47歳で会社員生活を卒業し、FIRE生活を送っている桶井 道さんに資産形成術を伺いたいと思います。まずは、今の桶井 道さんの生活について教えてください。

 

桶井 道さん:今は投資家と物書きが主な活動です。難病の父、がんサバイバーの母と同居をしていますので、介護や家事、見守りもしています。あと、子ども食堂でボランティア活動もしています。

 

マネ活編集部:いろいろなご活動をされているんですね。決められた時間に沿って動いているんですか?

 

桶井 道さん:いえ、特にルーティンはありません。介護や食事当番の日は親に時間を合わせる必要がありますが、時間をずらせる家事は柔軟にやっていますし、家事以外の時間も好きに使っていますね。原稿の執筆や投資の勉強をしたり、地元のカフェでひとりの時間を過ごしたりと、することはいくらでもあって時間がすぐに過ぎます。

 

マネ活編集部:いわゆる「隠居生活」とは違った印象です。

 

桶井 道さん:縁側で読書のような生活は老後の楽しみに取っておけばいいかなと。暇なのは向いていないタイプなので、やることがある方がかえって私にとっては良いことだと思います。

 

マネ活編集部:今、桶井 道さんはどのような投資、資産運用をされているのでしょうか。

 

桶井 道さん:日米をメインに世界30カ国と地域の増配もしくは高配当の個別株、リート(不動産投資信託)、ETF(上場投資信託)を70銘柄保有しています。内訳は日本株が13銘柄、外国株が43銘柄、ETFが14銘柄、そのうち外国リートが5銘柄です。

 

マネ活編集部:不躾な質問になりますが、今の桶井 道さんの資産はどのくらいなのでしょうか。

 

桶井 道さん:1億2,000万円ほどですね。2022年の年間配当金は手取りで180万円の予定です。60歳時点で1億5,000万円を必達目標、2億円をチャレンジ目標にしていまして、配当金は240万円を必達目標としています。今はここのギャップを埋めるために配当金を再投資している形です。

 

あとの計画としては、高齢になって投資判断が鈍る前に、多くを分配金の厚いETFに移行させようと思っています。ETFからの分配金を生活費に充て、「ほったらかし投資」にしたいなと。取り崩すのは暴落時にメンタルが厳しくなりますし、投資判断も求められますから、80歳以降はほったらかし投資計画を立てています。

 

25歳から先取り投資を開始

マネ活編集部:桶井 道さんが資産形成を始めたのはいつですか?また、どういった理由だったのでしょうか。

 

桶井 道さん:資産形成のために投資を始めたのは25歳ですね。もともと投資をしようとは思っていまして、それまでは投資のための種銭(たねせん/お金をためようとするとき、そのもととなる銭)を貯める期間に充てていました。種銭として貯めたのは1,000万円。内訳はこのような感じです。

 

<1,000万円の内訳>
17歳までに親から株式受贈 200数十万円
17~25歳までのその運用益 200数十万円
お年玉貯金&学生アルバイト 数十万円
社会人になってから貯めたお金 400数十万円
合計1,000万円

 

資産形成をしようと思った理由は2つあります。1つ目は両親が株式投資をしていたため、社会人になると誰もが株式投資をするものだと思い込んでいたからで、2つ目は私の健康面です。私は小学生の頃から身体が弱く、欠席日数が年間2桁に達するほどだったものですから、いつ働けなくなっても困らないように資産形成が必須だと思っていました。これらは社会人になる前から考えていましたね。

 

マネ活編集部:どのように資産形成を進めていったのでしょうか。

 

桶井 道さん:大きく2段階に分けられます。まず第1段階は当時の東証1部、2部、新興市場の株に投資していました。年収400万円台と収入はいたって普通の会社員でしたから、節約により種銭を作り、値上がり益を狙って投資をしていました。

 

第2段階は40歳手前の頃で、内臓疾患により体調を崩したことがきっかけでした。有給休暇が不足し、欠勤も経験。日々の生活だけではなく、人生にも迷いが生じましたね。会社員として60~65歳の定年までやっていけるのかという迷いもありました。

 

このとき、投資家として再出発しようと思ったきっかけは、安倍元総理によるアベノミクスでした。病気と闘いながら、投資家としても会社員としてもがんばりましたね。高配当株への投資にシフトしたのがこの頃です。このときにはFIRE志向を持ち始めていまして、配当金が生活費になると判断したのがシフトした理由でした。

 

アベノミクスに乗り、資産も配当金も増加。米国など外国投資やETFへの投資も始めました。

 

マネ活編集部:米国株など外国投資やETF投資を始めたのはなぜですか?これらにどういった魅力があったのでしょうか。

 

桶井 道さん:2015年あたりから保有している株を発行している日本企業で不祥事が続き、保有銘柄のうち3銘柄もが暴落するという経験をしたことを受けて米国株に目を向け、2016年にNISAで外国株投資信託をスタートしました。

 

そこから2年ほど経ち、保有していた米国株投資信託の成績が良いことがわかりました。米国株について勉強したところ、米国株が歴史的に右肩上がりであること、米国企業はガバナンスがしっかりしていて不祥事が少ないこと、米国企業は株主還元意識が強いこと、米国は、通貨(金融)、経済、軍事、最先端技術でトップクラスであること、米国は人口増加していること。これらのことに魅力を感じ、2018年から本格的に米国株メインでの外国株投資を始めました。

 

その中でリートやETFに投資を広げていったという流れです。米国以外の外国企業は、世界で稼げる企業をメインに選んでいます。

 

マネ活編集部:40歳手前の時期にFIRE志向があったのは、体調面の不安が大きかったのでしょうか。

 

桶井 道さん:それも理由の1つです。ほかに2つ理由がありまして、1つは勤務先が株主の方ばかりに還元していて、いくら実績を上げても従業員への還元がなかったこと。私は従業員数千人の中で営業成績トップを獲り、社長表彰を受けたこともあったのですが、昇給、賞与ともに反映されませんでした。会社が過去最高利益を上げたときも、社員がもらったのは社内通信教育の案内で、収入には変わりがなかったのです。

 

もう1つは、39歳のときに勤務先が役職定年制を導入し、55歳をもって給与が2割カットされることが決まったことです。この3つの理由で、アーリーリタイアをして専業投資家としてやっていきたいと思うようになりました。

FIRE前の懸念は心配無用でした

マネ活編集部:実際にアーリーリタイアをされる前、桶井 道さんにはどのような不安や葛藤がありましたか。

 

桶井 道さん:いろいろありましたね。暇で仕方ないんじゃないかとか、やりがいのない生活に楽しさはあるんだろうかとか。所属がなくなることへの不安や承認欲求の枯渇、人間関係の変化についていけるのかといった不安もありました。

 

ほかにも、資産が減っていくことにメンタルが耐えられるのか、仕事をしなくなることで運動量が減り、健康維持が難しくなるのではないか。あとは世間体ですね。平日ぷらぷらすることが気にならないだろうかとか、リタイア後の生活がイメージしづらい分、さまざまな不安がありました。

 

マネ活編集部:実際にFIREされたあと、それらの懸念はいかがでしたか?

 

桶井 道さん:何とかなるものでした。私は2017年に会社内でダウンシフトをし、セミリタイアを実行したあと、2020年にフルFIREしています。この段階的な変化が心の面において良かったのかもしれません。現実的な話でいうと、住民税や健康保険料の負担が急激に重くならない点もセミリタイアを挟んだ利点でした。これらは前年所得からの計算になりますので。

 

具体的にそれぞれの懸念について結果をお話すると、最初にもお話したように暇だと感じることはほぼありませんし、やりがいは会社を辞めたあとに新しく見つけることができます。私の場合は、FIRE後に2年連続で単行本を出版するお話をいただけ、新たな楽しさを見出しました。

 

出版後にはブログやTwitterへの相乗効果が生まれ、多くの投資家様とのコミュニケーションも生まれましたし、メディア取材も多く受けました。アウトプットする場がたくさんあることがやりがいに繋がっています。また、子ども食堂のボランティア活動で子どもたちの笑顔に触れられるのも生きがいですね。

 

マネ活編集部:所属がなくなることでの変化や承認欲求問題についてはいかがでしょうか。

 

桶井 道さん:所属がなくなることへの不安は退職が決まった当日がピークで、その後は徐々になくなり、退職後はほぼなくなっていました。数カ月後には皆無でしたね。新たなコミュニティができたからだと思います。趣味でも何でも、属する先は何でもいいのだとわかりました。

 

承認欲求については、FIRE後に新たに評価してくださる方が出てくるものなのだなと知りました。私の場合は編集者の方やTwitterのフォロワーの方ですね。執筆原稿を褒められたり、ツイートを見て「ETFの良さがわかりました」「新しい株の銘柄に出会えました」とリプライをいただけたりすることをうれしく思っています。

 

マネ活編集部:資産が減っていくことへのストレスはいかがですか?あと、健康維持や世間体についてもいかがでしょうか。

 

桶井 道さん:資産については、不労所得を作ることが大切だと考えています。私は配当金が月15万円ほど、配当金以外の収入を足すと月平均で合計40万円ほどがありますから、特に不安はありません。キャッシュフローをプラスの体制にしておくことが大切ですね。

 

体調に関しては、決まった時間に3食摂れ、睡眠時間も確保できているからか、風邪をひかなくなりました。問題は運動量の低下だけですね。コロナ禍が重なったこともあり運動量が激減し、体力の低下と中性脂肪の異常値が今の私の課題です。

 

あと、気になる方も多い世間体に関しても、特に気になりませんでした。世間体は自分の心の中に作り出したものなのでしょう。そもそも、私は近隣住民にそこまで興味がない人間なんですよね。それに、平日休みの仕事はいくらでもあるわけですし。コロナ禍で在宅ワークが普及したことで、世間体が気になる人にとっても違和感が薄くなったのではないかとも思います。

 

マネ活編集部:市況が変わる中で、FIREの目標を達成できた背景について、ご自身ではどのようにお考えですか。

 

桶井 道さん:22歳から先取り貯金を、25歳から先取り投資をしてきたことですね。それと節約。労働+節約+貯蓄+投資の歯車を回し続けました。節約の意識は高かったと思います。マイボトルを持参するようにして飲み物代を節約すれば、1日300円×365日で約11万円の節約ができます。ほかにも、コンビニに行く習慣をやめたり、通信は格安スマホを利用したり、ゲームの課金をしない、夕刊紙・スポーツ紙を買わない、年会費が有料のクレジットカードは1枚までしか持たないなど、習慣的な支出を抑えることで大きな節約効果を得られます。

 

マネ活編集部:節約が苦手な人は、どうすればストレスを感じずに節約を続けられるでしょうか。

 

桶井 道さん:すべてを節約しようと思う必要はなく、今を楽しむお金と将来に備えるお金、そのバランスを大事にしてください。収入額やFIRE志向の度合い、価値観でそのバランスを配分すればいいと思います。私は自分を満足させる分野については支出を多めに見て、そこで満足することで、ほかの欲求をコントロールするようにしています。

 

基本的には固定費の節約がおすすめですね。一旦カットなり減額なりすれば、ずっと節約効果が継続するからです。変動費の節約には多大なストレスがかかる上に効果が低いので、費用対効果の効率が悪いと感じています。

 

あとは部屋の中のものを減らすのもいいですよ。私はものを減らすのに比例して物欲が減りました。

 

ただ、週に1~2度、カフェでお茶をしながらのんびり過ごすことまで我慢する必要はないでしょう。そこで過ごす時間に価値を感じられるなら、それはその方の人生の彩りとして必要なことだと思います。

 

好き嫌いで判断できること・親孝行できることがFIREの良さ

マネ活編集部:FIREにより生活スタイルが変わったことで、どのようにお感じになられていますか。

 

桶井 道さん:基本的に時間に追われなくなり、人に媚びる必要もなくなりました。かといって偉そうにしているわけではなく、自分にも家族にも他人にも丁寧に生きています。時間、お金に余裕があると、イライラすることもなくなるのですよね。私は親の介護をしていますが、介護とFIREとの親和性は高いと感じます。「好き」「嫌い」でシンプルに判断できることと親孝行できることがFIREの良さです。

 

マネ活編集部:今後、桶井 道さんはどのような過ごし方を考えていますか?

 

桶井 道さん:ここ数年のスパンで話すと2つあります。1つ目は、コロナ禍でしたくてもできなくなってしまったことをしたいですね。趣味であるザ・リッツ・カールトンなどの高級ホテルでの週に1回のお茶や、証券会社や銀行が開催する投資セミナーにも週に1度参加したいです。

 

2つ目は、3冊目の単行本の出版です。1冊目はFIRE本、2冊目は米国ETF投資本だったので、3冊目は個別株投資本や世界投資本、投資+節約+貯蓄といったお金全般の本なんかを考えています。ブロガーで単行本を出される方は多くいらっしゃいますが、複数冊出された方となるとぐんと少なくなりますので、ぜひとも3冊目を実現したいです。

 

マネ活編集部:長期スパンではいかがですか?

 

桶井 道さん:60歳になったらシニアマンションに入居して、のんびり暮らしたいですね。シニアマンションとは、高級マンション+ホテル+老人ホーム÷3のような、いいとこ取りの存在で、1LDK~2LDKの自室(マンションと同じく個室)があり、住人専用の共用施設として、レストラン、大浴場、レセプション、コンシェルジュ、ライブラリー、ラウンジ、庭園、趣味のサークル活動、提携クリニックなどもある、24時間有人管理の物件です。介護棟まで備えている施設もあるんですよ。

 

今はそのために資産運用をしており、配当金の月額手取り20万円を目指しています。そこに公的年金が月額10万円あれば、生活費はキャッシュフローだけで補える計算です。人生も投資も長い目で見て、出口戦略をしっかりすることが大切だと考えています。

 

マネ活編集部:FIREに関心を持つ読者にアドバイスをお願いします。

 

桶井 道さん:資産運用は時間と複利を味方につけて運用するのが王道です。まずは投資本を数冊読み、次に少額から始めましょう。成功や失敗を経験しながら学び、徐々に金額を上げてください。個別株投資ではなくとも、投資信託やETFがありますし、つみたてNISAやiDeCoなど非課税制度もあります。スマートフォンさえあれば株式投資ができ、関連情報も得られる時代になりましたから、誰でも投資を始めやすい環境になったと思います。

 

注意点として、誰かが得した分だけ損をするFXやデイトレード、ハイリスクハイリターンのレバレッジ系の投資信託はおすすめしません。競馬などギャンブルは論外。繰り返しになりますが、時間と複利を味方につけて資産運用することが大切です。

 

メンタル的なことでアドバイスをするとすれば、私の不安が杞憂に終わったように、実際にはFIRE後に具現化することはないかもしれません。単なる現状維持バイアスだといえるかもしれませんので、時間が解決してくれると気負わず考えても良いでしょう。

 

FIREにあたり、私が思う解決しておくべきことは3つだけ。お金の問題、家族の同意、会社員としての自分の達成感と納得感です。私は「父の会社をたたむ手伝いをする」、「週3日ほどは短時間で働きに出る」、「投資セミナーに週1度は通う」、「投資勉強を続ける」、「家事を担う」、「家でだらけた生活はしない」という約束で家族からFIREの理解を得ました。

 

ただ、私の両親は投資経験があったため、理解が得やすかった側面はあるかもしれません。周りに投資をしている身内がおらず、FIREの理解が得づらい方は、まずは「FIRE希望」があることを説明し、時間をかけながら理解を得るといいでしょう。資産額、キャッシュフローを説明し、お金に不安がないこと、FIRE後の生活像を説明することも大切でしょうね。

 

あと最後に挙げた会社員としての自分の達成感と納得感もメンタルのためには大切です。逃げるように辞めると、あとから劣等感のようなものが出てきてしまうかもしれませんから、できるならば納得のいく成績を残してから退職することをおすすめします。ただし、体調不良など差し迫った理由がある場合はこの限りではありませんが。

 

FIREは自分とは無関係のことだと思っている方もいるかもしれませんが、政府統計では75歳以上で、要介護もしくは要支援の認定を受ける人の割合は31.8%とされ、両親のいずれかが要介護、要支援になる確率は低くありません。そのため、誰にでも仕事と介護との両立問題に直面する可能性はあります。そんなとき、FIREが選択肢にあるのは大きい。お金の問題は誰でも若いうちから準備を進めるに越したことはないと思っています。

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