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自筆証書遺言書の作成事例|特別な事情がある場合に気を付けることを解説⑤
自筆証書遺言書とは、法律で定められた方法に基づいて自筆で作成する遺言書です。今回は子のいない夫婦の場合に気を付けるべき注意点を個別事例を参考に解説していきます。
遺言者は自分で築き上げた財産をどのように処分するか、自由に決めたい場合もあるかと思いますが、相続には遺留分(遺留分侵害額請求権)という、亡くなった方(被相続人)が有していた財産の一定割合について、一定範囲の遺族(相続人)に対し、相続する権利を保障する制度があります。
ただし他の法定相続人とは違い、兄弟姉妹には遺留分(遺留分侵害額請求権)が認められていませんが、子のいない夫婦が亡くなり家族が他にいない場合、兄弟姉妹が相続人になり財産を相続することになります。さまざまな理由から自身の兄弟へ相続させたくない場合は、それを遺言書に正しく記載することで、兄弟姉妹への相続を回避することが可能です。
今回は遺言書を作成するにあたり、子のいない夫婦が気を付けるべき注意点について、個別事例をもとに解説していきます。
事例1 子のいない夫婦の場合
子のいない夫婦が、財産を自身の兄弟に相続させたくないため、財産のすべてを他の人へ相続させたり遺贈したりする場合。の遺言書の記載例と、その際のポイントを説明します。
遺言書記載例
第1条 遺言者田中太郎は、所有する次の不動産を妻田中花子(東京都〇〇区〇〇町一丁目1番1号、生年月日昭和〇年〇月〇日)に相続させる。
1.土地
所 在 〇〇区〇〇町一丁目
地 番 1番1
地 目 宅地
地 積 200㎡
2.建物
所 在 〇〇区〇〇町一丁目1番地1
家屋番号 1番1
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺平家建
床 面 積 100㎡
第2条 遺言者は、次の者に金300万円を遺贈する。
受遺者
住所 〇〇区〇〇町一丁目1番3
氏名 鈴木良子
生年月日 昭和〇〇年〇月〇日
遺言者との関係 友人
2 前項の鈴木良子が、遺言者より前に死亡していた場合は、次の者に金100万円を遺贈する。
住所 〇〇区〇〇町一丁目1番4
氏名 小林春子
生年月日 昭和〇年〇月〇日
遺言者との関係 友人
第3条 遺言者は、前2条に記載した財産を除くすべての財産を妻花子に相続させる。
第4条 遺言者より前に又は遺言者と同時に妻花子が死亡したときは、遺言者は、その所有する財産を次のとおり遺贈する。
(1)〇〇大学〇〇学部〇〇基金に金〇〇円
(2)NPO法人〇〇協会に金〇〇円
(3)公益財団法人〇〇協会に第1条に記載した不動産全て
第5条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、妻花子を指定する。
2 遺言者は、遺言執行者に対し、預貯金の名義変更、払い戻し、貸金庫の開閉および収納
物の受領その他の遺言の施行に必要な一切の行為をする権限を与える。
3 遺言者の相続開始前に遺言執行者が死亡していたときは、第2条に記載した鈴木良子を予備的に遺言執行者として指定する。
4 遺言執行者は、遺言の執行を第三者へ委任して行わせることができる。
令和4年2月22日
田中太郎 ㊞
記載に関してのポイント解説
1. 子のいない夫婦の一方に相続が発生した場合の法定相続人
子のいない夫婦の一方に相続が発生した場合の法定相続人は、以下の通りです。
(1)被相続人の父母が存命の場合は、配偶者と被相続人の存命の親
(2)被相続人の父母・祖父母等が全員死亡している場合は、配偶者と被相続人の兄弟姉妹
2. 兄弟姉妹への財産の分割
遺言者に子も親もいない場合、相続人は妻と兄弟姉妹となります。兄弟姉妹が先に死亡しているときはその子(甥姪)になります。
兄弟姉妹等は、全体の4分の1の相続権を有しているため、妻に対し財産の分割を要求することが可能です。
めぼしい財産が自宅しかない場合は、兄弟姉妹への遺産分割のために自宅を売却せざるを得ないケースになることもあります。
3. 兄弟姉妹の相続権を無くす方法
遺言書において、全ての財産を兄弟姉妹以外の人へ相続させたり遺贈したりする必要があります。
兄弟姉妹には、他の法定相続人とは違い、遺留分(遺留分侵害額請求権)は認められていないため、兄弟姉妹への相続分をゼロとすることが可能です。
4. 予備的遺言
遺言書で相続させると記載した相手が先に死亡してしまった場合は、その部分につき遺言書は失効し、通常の相続の方法となってしまいます。
したがって、せっかく兄弟姉妹への相続が発生しないように記載しても、相続の順番によって結果が変わってしまうこともあります。
そのような場合に備えて、本例のような予備的な記載をすることも可能です。
遺言書を再度作成する方法もありますが、本人が遺言書を作成できない状態の場合もありますので、予備的な遺言を作成しておくことは有効と言えるでしょう。
5. 遺言執行者の指定
第三者へ遺贈をする場合等、遺言を実現するために相続人全員の協力が必要となる手続きがあります。
ただし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が行えばよいとされていまが、
遺言執行者を指定しておかないと、相続人全員の協力が必要となります。
通常は、遺言により財産を取得する方を遺言執行者として指定しておくことで、1人で手続きが可能となりますので、遺言書の作成時は気を付けておくとよいでしょう。
なお、遺言執行者の指定に関しても、予備的な指定を記載しておくことが望ましいと言えますね。
6. 寄付や遺贈をする場合の注意点
受遺者は遺贈を放棄することができます。
この場合は該当する部分につき遺言書が失効し、通常の相続となるため、遺言者の希望を実現することができなくなります。
想定外の相続の発生を防ぐために、遺言書により寄付や遺贈を検討する場合には、事前に受け取る側に対し、受け取る意思があるかを確認しておくとよいでしょう。
注意事項
(1)遺言書記載例は一部抜粋で記載しているため、このまま作成しても自筆証書遺言書としての効力が生じない可能性があります。
(2)この記事は掲載日時点での法制度に基づき作成しております。
(3)場合によっては個別具体的な検討を要することもありますので、あらかじめ専門家等にご相談ください。遺言書の作成は作成者自身の責任において作成されたものとなります。
まとめ
遠くの親戚より近くの他人という言葉もあることから、自分の財産を疎遠な兄弟姉妹ではなく自由に処分したいと考える方も多いでしょう。
また、遺された配偶者が予期せぬ遺産分割トラブルに巻き込まれないためにも、遺言書を準備しておくことが大切です。
このテーマに関する気になるポイント!
- 子も親もいない既婚者の相続人は?
配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。 - 兄弟姉妹が相続人となった場合の相続分は?
兄弟姉妹全体で4分の1です。 - 兄弟姉妹とそれ以外の相続人の相続権の違いは?
兄弟姉妹には遺留分が無いということです。 - 遺言書を作成する上での注意点は?
(1)財産を受け取る人が先に死亡した場合に備えて予備的な遺言をしておく。
(2)遺言執行者を指定しておく。
(3)遺言執行者の指定に関しても予備的な遺言をしておく。
(4)遺贈や寄付をする場合は、受け取る相手方へ事前に相談をしておく。
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