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「宝物」を探しに古い商店街へ。昭和レトログッズを集めるNight Tempoさんに聞く、日本の魅力
昭和レトログッズが大好きな韓国人ミュージシャンのNight Tempoさん。独特な昭和レトログッズの集め方と、その魅力を語っていただきました。聞き手は同じように海外の古い音楽を集めているライターの石川大樹さんです。
- 昭和レトログッズはかわいくておしゃれ
- 古い商店街で見つけた「宝物」に愛着を感じる
- みんなに流行する前に済ませておいた「カセットテープ収集」
- ハマった音楽をたどりつつ、どんどん興味を広げていく
- 文化の保存のために、収集した物で展示施設を作りたい
- 80年代日本への憧れは、生きやすかったかつての韓国への想いに通じている
- 愛を持った収集を続けることで、作家性にまで昇華されるのかもしれない
また、Night Tempoさんの「昭和レトロ」好きは歌謡曲だけにとどまらず、家電や雑貨などの昭和レトログッズも集めています。
こうした収集を通してNight Tempoさんならではの日本の楽しみ方や魅力を聞いてみました。また、昭和レトログッズの独特な集め方のコツも聞くことができました。そこから浮かび上がってきたのは、単なる収集にとどまらない「昭和レトロへの愛」です。
最近では、昭和レトログッズの人気が高まっています。ぜひNight Tempoさんの楽しみ方を参考にしてみてください。
聞き手はNight Tempoさんと同じように海外の少し古い音楽を収集している、ライターの石川大樹さんです。ではどうぞ!
フューチャー・ファンクという音楽ジャンルがある。日本の80年代の音楽……シティ・ポップや、アイドル歌謡やアニメソング(セーラームーンが人気だ)をサンプリングして、ダンスミュージックに仕上げたジャンルだ。現在、世界的なシティ・ポップブームがあるが、その火付け役となった音楽でもある。
1970年代後半から1980年代に流行した、都会的に洗練された雰囲気の音楽。竹内まりや、山下達郎などが代表的。
面白いのは、フューチャー・ファンクの発祥が日本ではないという点。海外のアーティストたちのインターネット上での活動で生み出された音楽であり、80年代の日本の音楽が彼らによって「再発見」されたのだ。
韓国出身・在住のNight Tempoさんはそんなフューチャー・ファンクのアーティストのひとりである。
個人的な話になるが、僕はこのインタビューをとても楽しみにしていた。というのも、僕はタイの60年代の音楽や東欧のロマ(東欧の移動民族)音楽が好きで、よく聴いている。こういう異国のメジャーでない音楽は、CDやネットで聴ける音源も限られてくる。
そうすると最終的には現地に行って探すしかない。しかし古い音源は現地でもメインストリームではないので、2泊3日程度の旅行では情報を得ることすら難しいのだ。
韓国出身・在住であるNight Tempoさんにとって、80年代日本の音楽を発見することは、同じように難しいはずである。また、Night Tempoさんの情熱は音楽だけに収まらず、昭和の雑貨や電気製品など、さまざまなコレクションを収集しているそうだ。
Night Tempoさんは異国の文化をうまく掘っている。僕はこの活動において、勝手ながらNight Tempoさんを「先輩」と思っている。先輩の持つ秘訣を聞いてみたい。
昭和レトログッズはかわいくておしゃれ
石川
Night Tempoさんは昭和レトログッズをかなり集めていると伺いました。どんなところがお好きなのでしょうか。
Night Tempo
1980年代の日本の雑貨や家電のデザインって、おしゃれだったり、かわいいと思います。自分のファッションやアルバムのジャケットなども、すごく影響されています。
石川
現在は渡航は難しいと思いますが、日本にはどのくらいの頻度で来ていましたか。
Night Tempo
2019年は日本で音楽の仕事を始めたこともあり、1年の半分くらいは日本にいました。それ以前は3カ月おきには来ていました。
石川
コレクションにはどんなものがあるんでしょうか。いくつか見せていただいてもよいですか?
Night Tempo
はい。たとえばデジタル系の古い、1970~1980年代の目覚まし時計が好きです。
時間帯によってディスプレイの風景が変わる
これは特にCITIZENのデザインが気に入っています。
石川
すごい。しかも現役で稼働するんですね。
Night Tempo
壊れていても、自分で修理して動かしますね。だから、いいものを見つけたら動かなくても買っちゃいます。
石川
修理までやってしまうんですね!
Night Tempo
このカセットデッキなども、全部直しています。ほかにはテクニクスの自動レコードプレイヤーや、ウォッチマンというポータブルテレビもあります。
Night Tempo
これはビクターのビデオデッキなんですが、デザインがかわいいのが好きです。
石川
昔のカセットデッキやビデオデッキって、造りが丈夫というか、お金がかかっている感じがしますよね。今の製品に比べると。
Night Tempo
そうです。全然「年を取らない」ですね。
キャラクターの絵が付いたコップもたくさんあります。魔法少女系や、サンリオのものもありますね。
Night Tempo
『うる星やつら』も好きですね。腕時計は実際によく着けています。
石川
『うる星やつら』! いいですね。
Night Tempo
腕時計はバンドを新しく変えて、中身もちゃんと修理して、キレイにして……。ロフトを倉庫がわりにしているのですが、そこを探したら同じものが3つくらいはあると思います。すごくお気に入りだから、見つけたら買っています(笑)。
石川
ロフトには、かなりびっしりものが置いてあるんですか?
Night Tempo
はい。コップが50個くらい。お皿は70~80枚はあります。それからデジタル時計が100個くらいあります。チープカシオや、シチズンなどです。
多すぎるので、そろそろ引越ししないとと思っています。コレクションのために部屋がもっと必要だから。
古い商店街で見つけた「宝物」に愛着を感じる
石川
日本でも簡単には手に入らないようなものばかりですね。こういったグッズはどこで探しているんでしょうか。
Night Tempo
日本に行ったときに、各地の古い商店街を回るのが好きなんです。雑貨屋さんでコップや文房具、ファンシー用品を買います。ほかには時計屋さんに行きますね。
石川
古い商店街にそんな宝物が眠っているんですね。最初はどうやってそれに気が付いたんですか?
Night Tempo
もともとはオークションサイトや、フリマサイトで探していました。そうしたら、知り合いのお母さんなどから「それなら、商店街の古いお店に行ってみたら?」と教えてもらって。実際に巡ってみたら、自分にとっての宝物を見つけることができました。
ネットでクリックして探すより、自分で行って見つける方が気持ちがいいし、愛着も湧くんです。宝探しみたいですごくハマって。
石川
韓国から、日本の商店街をどうやって調べるんですか?
Night Tempo
まずGoogle マップで「商店街」と検索します。それを一つ一つストリートビューで見て、古そうなところを探します。それから周りの家を見て「ここは豊かな人が住んでたんだろうな」と思ったところに行くんです。そういうところにある商店は当時いいものを取り扱っていたから、行ってみるとちゃんと掘り出しものがあります。
石川
あ~……! それ、面白いですね。完全に予想外で驚いています。てっきりコレクター向けのショップやジャンクショップをめぐっていると思っていました。日本人でも、レトログッズが欲しい人はマネできそうですね。
みんなに流行する前に済ませておいた「カセットテープ収集」
石川
カセットテープで音源を持つことが流行しています。Night Tempoさんもカセットテープをたくさん収集していると伺いました。
Night Tempo
カセットテープの小さいところが好きなんです。元々レコードとして出していたものが小さいカセットになると、デザイン的にも情報がコンパクトにまとまります。それが日本人の真面目さを表している気がして……。
石川
どのくらいの本数をお持ちですか?
Night Tempo
邦楽だけで500本はあると思います。複数持っているものもあって、例えば竹内まりやさんの『プラスティック・ラブ』が入っている『VARIETY』というアルバムは、10本くらい持っています。
竹内まりやが1984年に発売した『VARIETY』の収録曲。海外でのシティ・ポップブームの中でもかなり人気が高い楽曲。
石川
かなりたくさんお持ちですが、それでもまだ欲しいものがありますか?
Night Tempo
欲しいものはまだあります。でも、永遠に見つからない可能性が高いので……。一応目標は達成したことにしています。
角松敏生さん、山下達郎さん、竹内まりやさん、松原みきさん、杏里さん……。これらの音源はフルコレクションできたので。まずは満足です。
石川
カセットはどこで手に入れるんですか?
Night Tempo
これも商店街でよく手に入れます。すごくレアなものは、中古サイトを使うこともありますが。
石川
商店街なんですね。これもコレクター向けのレコード屋などに行かれるのかなと思ってました。
Night Tempo
生意気なことをいうと……。コレクター向けのお店にあるようなレアで状態のいいものは、すでに自分の家にあります(笑)。
石川
すごい(笑)。プレミアがついていて、値段がすごく高いものもあると思うのですが。
Night Tempo
みんながカセットテープに目をつける前から集めているから、そのときは全然レアじゃなかったんです。早くて得した!って感じです(笑)。
石川
そうですよね(笑)。昔は集めるっていえばレコードでしたもんね。
Night Tempo
いまはレコードよりカセットテープの方が高いですね。レアなもの、たとえば山下達郎さんのカセットは、レコードより2~3倍は高いと思います。
石川
みんながありがたがる、プレミアのついているものはすべて持っているから、いまは注目されていないものを買い集めている段階というわけですね。コレクションがネクストステージに達しているな……。
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ハマった音楽をたどりつつ、どんどん興味を広げていく
石川
日本の80年代の音楽とは、どのように出会ったのでしょうか。海外ではなかなか日本の音楽情報が伝わりにくいと思うのですが……。
Night Tempo
父が海外出張の多い仕事でした。日本に行ったときも、いろいろお土産を買ってきてくれて、その中にCDがあったんです。
最初は中山美穂さんの曲にハマって、そこからどんどんいろんな曲を聞くようになりました。気に入った曲があったら、曲を手掛けている人を調べて、そこからどんどん広がって。
始めは中山美穂さんの曲を書いた角松敏生さん、次に角松敏生さんが影響を受けた山下達郎さん、その山下達郎さんの周りにも竹内まりやさんや大貫妙子さんと、いろんな人がいて……。そこから中原めい子さん、佐藤博さん、Cindyさんも知りました。
Night Tempoさんの『Night Tempo presents ザ・昭和アイドル・グルーヴ』。こうして集めた昭和アイドル・ポップスをリエディットした作品をまとめたコンピレーションCD
石川
そういった音楽の音源は、当時どこから入手されていたんですか?
Night Tempo
小さいころは情報がなくて難しくて。僕が20代前半(2000年代後半)のころからネットで調べられるようになりました。ただ、海外から直接通販できるわけではありません。
なので、最初は代理購入サービスを経由して購入していました。やがて日本に行けるようになってからは、自分で買っています。
石川
僕は海外の音楽を集めるときに、ネットで探した後、すぐに現地に行っていました。でも、それだと目当てのものが見つからなくて、途方に暮れていました。「代理購入」という手段があったんですね。確かにその方が手っ取り早いし、確実に手に入りそうです。なるほど……!
文化の保存のために、収集した物で展示施設を作りたい
石川
日用品から、家電、カセットテープなどいろいろなコレクションを見せてもらいましたが、コレクションしているものは、すべて厳選したお気に入りのものですか?
Night Tempo
お気に入りのものだけです。いつか、自分がおじいさんになったら、コレクションを展示できる空間を作りたいんです。そのときにちゃんと飾れるものを、自分がキュレーター(博物館などで収集品の管理や研究を行う人)として自信を持って見せられるものを集めています。
石川
あ~なるほど。いいですね。
Night Tempo
いま残っているものを早く集めて、自分が保存しないといけないと思っています。極端なことをいうようですが、天災などが起こったら、いろいろなものが失われてしまいます。
石川
データのバックアップみたいです。一カ所に……日本だけにあると、なにかあったときに全部なくなってしまうけど、分散してNight Tempoさんのおうちにもあると、何かあっても保護される可能性が高まりますね。
Night Tempo
何もなかったとしても、いつかちゃんと展示して、価値をわかってくれる人に見てもらうことには意味があると思っています。だからいまのうちにがんばって集めないと。文化はやはり保存しないといけないという考え方です。
石川
なんだか、ありがとうございますって言いたくなってしまうような……(笑)。
80年代日本への憧れは、生きやすかったかつての韓国への想いに通じている
石川
最後にお伺いしたいのですが、なぜNight Tempoさんはこんなにも昭和レトロを愛しているんでしょうか。
Night Tempo
たとえば、1980年代のサンリオは、韓国に住んでいる自分にとってもすごく懐かしいんです。自分の幼いころにサンリオキャラクターのグッズを韓国でよく見ていましたし、自分でもサンリオの文房具を使っていました。1980年代に日本で流行ったものが、韓国では1990年代前半くらいに流行っていたんですね。
石川
すると、これらのグッズはNight Tempoさんに限らず、同年代の韓国の方にとっては懐かしいと思うものが多いということですか。
Night Tempo
韓国の30代の人にとっては、懐かしいと思います。日本の方よりは10年くらい若い世代だと思うんですけど、韓国ではああいうものが入ってきたのが遅かったので。
石川
1980年代のグッズには、Night Tempoさんの過ごした幼少期に対する想いがあるんですね。……いまの日本と、昔の日本のどちらがお好きですか?
Night Tempo
昔の日本です。好きというか、憧れがあります。いまの方がインターネットもあるし、ずっといいんですが、昔の方が生きやすかったんじゃないかなって。
韓国も日本より少し遅れて、1995年ごろにバブルがありました。学生は簡単に就職できたし、みんなが家を買うことも難しくありませんでした。いまの韓国の状況は、そうではありません。
石川
そうか……。そういう状況から見ると、日本の昭和の時代は、余裕があって憧れると?
Night Tempo
韓国の90年代前半が、日本のすごく豊かな時期と似てるんです。写真など見るとわかると思いますが、ほとんど一緒と言っていいほど似ています。
石川
日本の昭和に直接憧れているというよりは、その中に、韓国の90年代前半の姿を見ているようなところがある、ということですか?
Night Tempo
そうです。自分の幼い頃の方が、みんな希望を持っていた。だからそのときが憧れです。あの時代はよかったなって、懐かしく思うんです。
愛を持った収集を続けることで、作家性にまで昇華されるのかもしれない
単にミュージシャンとして音楽を愛するだけではなく、日本の1980年代をまるっと愛しているNight Tempoさん。そこには自身の過ごした幼少期に対する想いがあったのである。
とても楽しいインタビューで、持ち時間が一瞬で過ぎ去ってしまった。
異国の文化を掘る先輩……としてのインタビューだったのだが、Night Tempoさんは昭和の日本を「異国」というよりほとんど「自分ごと」としてとらえているのが印象的だった。
しかし安易に、Night Tempoさんが「日本人よりも日本人らしい」なんていうつもりもない。
僕はいま40歳なので、シティ・ポップはちょうど幼少期の音楽だ。それもあって、なんならちょっと古臭いくらいに思っていた。距離が近すぎるとそういう感覚になってしまうのである。
しかしその魅力をビシッと見抜いて、フューチャー・ファンクのような新しい音楽に組み替えたのは、やっぱり外からの視点があってこそだと思うのだ。
そんな視点が音楽に限らず、当時の日本の全方位に向けられているというのは、とてもありがたく、そして頼もしいように思う。
コレクターとしてもすごい。海外通販がない時代から、あきらめずに人づてに収集をする。Google マップを使い、日本の商店街を発見する。そもそも日本に来ている回数が多いし、滞在時間が長い。
そして、ただ物を買い集めるだけでなく、自分の作家性にまで昇華してしまう。
もしかしたらコレクターの究極の形なのかもしれない。いつか完成するであろうギャラリーも本当に楽しみだ。
そして僕はといえば、まずは今日からタイのストリートビューをじっくりと観察するところから始めようと思う。
お話を伺った人:Night Tempo
80年代のジャパニーズ・シティ・ポップや昭和歌謡、和モノ・ディスコ・チューンを再構築し、「フューチャー・ファンク」の人気アーティストである、韓国人プロデューサー兼DJ。米国と日本を中心に活動する。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットして欧米で和モノ・シティ・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。
2021年5月19日には、最新アルバム『Night Tempo presents ザ・昭和アイドル・グルーヴ』をリリース。これまでに配信リリースしたWink、BaBe、斉藤由貴、工藤静香の昭和グルーヴ楽曲に加え、もっと注目されるべき良い楽曲と彼が力説する、新田恵利、西田ひかる、森尾由美、そして、ゆうゆの楽曲を昭和グルーヴにアップデート、全12曲入りのコンピレーションが完成した。すべて初CD化音源となる。2021年6月18日には『中山美穂 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』をリリース。現在注目されるミュージシャンの一人。
オフィシャルWebサイト:http://NightTempo.com/
Twitter:https://twitter.com/NightTempo
YouTube:https://www.youtube.com/NightTempo
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