バンドを始めたら仲間ができて、毎日が楽しくなった話(寄稿:pha)

リリース日:2022/08/16 更新日:2024/08/01

phaさんがつまらない毎日を変えるためにバンド活動を開始。バンド名はエリーツ(ELITES)、メンバーはpha・海猫沢めろん・滝本竜彦・佐藤友哉・ロベスの5人。仲間と何かを作ることは楽しく、またバンドを起点に新しい楽しみが増えているそう。その様子をつづります。

  1. つまらない毎日を変えたくてドラムを始めた
  2. そしてバンドメンバーと出会う
  3. 仲間と何かをするのは楽しい
  4. 小さな目標を持つことで楽しみがさらに広がる

こんにちは、phaです。2019年、40歳になったのを機に11年間運営していたシェアハウスをやめて一人暮らしを始めたんですが、その後何をやっているかというと、物書きの仲間と「エリーツ(ELITES)」というバンドを始めました。

バンドではドラムを叩いています。ドラムはもともとやっていたわけではなく、40歳から練習を始めた感じです。

 

これは40歳からでもバンドをやるぞ、という気持ちを歌にしたものです。

昨今の状況から今はちょっとバンド活動ができていないのですが、今回は今年の初め頃を振り返りながら、僕がバンド活動を始めた理由や、バンドをやっていてよかったことについて書いていきたいと思います。

つまらない毎日を変えたくてドラムを始めた

そもそもなぜバンドをやりたいと思ったかというと、人生で特にやりたいことがなくてなんだか全てがむなしかったからだ。

 

なんか人生で大体やりたいことは全部やってしまったような気がして、全く新しい経験や体験というものに出会うことがなくて、一度クリアしたゲームをずっと繰り返して遊んでいるような気持ちになっていた。

 

 

もっと心を沸き立たせてくれるような何かはないだろうか。

 

 

そう思って、心の中を探してみたら、唯一思いついたのが「ドラムを叩いてみたい」ということだった。

 

ドラムに対する憧れは若い頃からあったのだけど、両手両足をバラバラに動かすなんてすごく難しそうで、自分には無理な気がしていた。すごく練習すればできるのかもしれないけれど、ギターやベースと違ってドラムは家では練習できないというのがネックだった。特にバンドをやるあてもなかったし。

 

そんな感じでずっとドラムをやったことのない人生だったのだけど、40歳の今になって久しぶりに、そんな欲望があったことを思い出してしまった。

 

バンドとかそういうのって、10代とか20代のうちにやっておくべきことで、40にもなってやるものじゃない気がする。でも、今ドラムをやらなかったら、もっと年をとってから、例えば死ぬ間際とかに、やっぱりドラムを叩いておきたかった、と後悔するかもしれない。もう僕はそんなに若くないけど、それでも人生で一番若いのは今なのだ。

 

昔に買ったきり全然弾いていなくて、すっかり弦が錆びついたギターを見ながら、そんなことを思った。

今、わりと暇はある。体だってまだ動く。そして今住んでる家の近くには音楽スタジオがあるから、練習もできる。バンドで借りると1時間2,000円くらいかかるんだけど、一人だけの個人練習だと1時間500円で借りることができるので安い。1時間500円って、喫茶店でお茶を飲むのとか、一人でカラオケに行くのと変わらない。暇なときの時間つぶしとしてコスパがよさそうだ。ドラムを叩くのに飽きたら、スタジオの中で大声で叫んだり踊ったりしていればいい。

 

そんなことを考えながら、一人でスタジオに行ってみることにしたのだった。

そしてバンドメンバーと出会う

楽器屋で一番安いドラムスティックと、ドラム入門の本を買ってスタジオに入った。

初めて叩くドラム、とりあえず入門書の最初に載っているエイトビートから始めてみる。やってみると意外とできて、自分は才能があるんじゃないか、と思ったけど、録画してみたのを見ると、テンポはずれていて、音のバランスも悪くてボロボロだった。

 

でも楽しかった。無音のスタジオの中でドラムをバシンバシンと叩くと、叩いたときの反響音がグワンとかグオンとか響いて、その倍音の響きがとても気持ちよかった。
そんなふうにして、ときどき一人で暇なときにスタジオに行って、ストレス解消のような感じでドラムを叩いていたときに、ちょうど今のバンドメンバーに出会ったのだった。

 

 

どんなメンバーかというと、作家が集まっている。

右から、

 

 ・海猫沢めろん(ギター)
 ・pha(ドラムス)
 ・滝本竜彦(キーボード、ボーカル)
 ・佐藤友哉(ギター、ボーカル)
 ・ロベス(ベース)

 

この5人だ。

 

たまたま知り合いになった海猫沢めろん先生のシェアハウスに遊びに行ったら、そこに滝本竜彦さんがいて、最近バンドを始めたんですよ、という話をしていた。
僕は、自分みたいな初心者が入ったら迷惑じゃないだろうか、と躊躇しながらも、「僕もバンドやってみたいんですよね」と言ってみた。

 

そしたらちょうどドラムがいなかったらしくて、ぜひぜひ、と言われ、練習に参加することになった。

 

 

ちなみにエリーツ(ELITES)というバンド名については、僕が京大を出ているからエリーツなんですか? とよく聞かれるけど、全然そうではなくて、もともとメンバーに大卒が誰もいなかったから逆にエリーツと名付けたらしい。だけど、無駄に高学歴な僕が入ったことでよく分からない感じになってしまった。

 

 

メンバーは、みんなアラフォーで同世代で、そんなに楽器ができるわけじゃないけど、今さらだけどバンドをやってみたい、というところが、ちょうど自分と同じ感じだったのでよかった。

 

そうやって2019年の夏、エリーツの活動は始まったのだった。

 

みんな年も近く、音楽や本が好きということもあって、すぐに仲良くなって、月に2回ほど定期的に集まることになった。

 

 

その頃ちょうど僕はシェアハウスをやめて一人暮らしを始めたばかりだった。

 

一人暮らしの生活は、なんだか時間が余ってしかたなかった。シェアハウスに住んでいるときは、同居人となんとなく喋ったり、誰かが突然遊びに来たりで時間がいつの間にか過ぎていたのだけど、一人暮らしになった途端、全ての時間が自分一人で完結してしまうようになった。それは快適でもあったけど、ちょっと物足りなくもあった。

 

そこに、ちょうどバンド活動がはまった。

 

自分ひとりだと楽器の練習は面倒臭くてサボりがちだけど、バンドのみんながいると、やらなきゃな、という気持ちになる。別に自分にそんなに音楽の才能があるとは思ってないので、一人だけだったら音楽なんて続かなかっただろう。

 

大人になるとなかなか新しい友だちができにくい、みたいな話があるけれど、「一緒に何かをする」という目的があると、会う回数が増えて、自然と仲良くなれるというのもいい。

 

これが、バンドで出会ったんじゃなくて、ただ飲み会で会った、とかだったら、こんなに定期的に会うことはなかっただろう。何か共同でやることがあると仲良くなりやすい。仲間を作るには、別にバンドじゃなくても、別にフットサルでも釣りでも餅つき大会でもよかったのかもしれない。たまたま僕らに合っていたのがバンドだったのだ。




仲間と何かをするのは楽しい

そんな感じで今ではすっかりバンド活動が生活の一部になった。

ここでバンドのメンバーを紹介したいと思います。みんながどんな気持ちでバンドをやっているかをあらためて知りたかったので、4つの質問をしてみました。

Q1. バンドをやってみたいと思った理由はなんですか。
Q2. バンドをやっていてよかったことはなんですか。
Q3. これからやってみたいことや目標はありますか。
Q4. 他、バンドや音楽について語りたいことが何かあったら教えてください。

滝本竜彦(キーボード、ボーカル)

1978年北海道生まれ。小説家。代表作として『NHKにようこそ!』『ライト・ノベル』などがある。現在『異世界ナンパ ~無職ひきこもりのオレがスキルを駆使して猫人間や深宇宙ドラゴンに声をかけてみました~』を連載中。

エリーツの曲はだいたい滝本さんが作っている。滝本さんがいつもコードに合わせて即興で何か歌って、それが曲になる、という感じだ。アドリブの創作力がすごい。

A1. (バンドを始めた理由)数年前にパソコンで一人で音楽を作り始めたんですが、DTM(デスクトップミュージック:パソコンを用いて制作する音楽)は地味で孤独な活動だと気付きまして(笑)、多くの人と賑やかに楽しく音楽活動できそうなバンドというスタイルに憧れを持つようになりました。

A2. (バンドをやってよかったこと)バンドメンバーとよく遊ぶようになり、肉体的、精神的な健康が増進しました。バンドは健康にいいです。

A3. (今後の目標)楽曲をたくさん作りたいです。あとは海、山、川でキャンプ等、アウトドアで遊ぶような活動をいつかしたいです。

A4. (その他ひとこと)大木が少しずつ天に向かって伸びていくがごとき自然かつ着実なペースで活動を続けていきたいと思います。

物書きって普段本当に人と会わずに家で原稿を書いているだけなので、何か仕事以外での人とのつながりがあるのがいいのだと思う。アウトドアとかいいですね。バンドと全然関係ないけど。

佐藤友哉(ギター、ボーカル)

1980年北海道生まれ。小説家。代表作として『1000の小説とバックベアード』『デンデラ』などがある。現在『青春とシリアルキラー』を連載中で、その小説の中にはエリーツの練習風景や曲が出てくる。愛称はユヤタン。

エリーツではギターとボーカルとYouTubeを担当。激しいギターロックが好きそう。書く小説は暗いけど本人は明るい。

A1. (バンドを始めた理由)初期衝動!

A2. (バンドをやってよかったこと)定期的に外に出るようになったことですかね。これまでずっと自室に引きこもって執筆してたから、練習のたびに外出するのはとてもいい……。バンドは健康にいいですよ。心に効く。

A3. (今後の目標)まずはなにより、ライブです。ライブをやってこそ、真のバンドマンですから。

A4. (その他ひとこと)ミュージシャンが小説家になるという例は、むかしからたくさんあるけど、その逆は知りません。僕たちエリーツが先達になれたら光栄です。まあ、ミュージシャンになりたい小説家がどれくらいいるのかは知りませんけど……。

初期衝動、僕もありますね。今でも10代の頃に感じてたようなバンドへの憧れがあるのは、当時バンドをやらなかったから引きずってるんだろうか。でも、いまだに熱くなれることがあるのは悪くないことだと思う。世の中が落ち着いたらライブやりたいですね……。

海猫沢めろん(ギター)

1975年兵庫県生まれ。小説家。代表作として『キッズ・ファイヤー・ドットコム』『愛についての感じ』などがある。現在『ディスクロニアの鳩時計』を連載中。作詞やラジオパーソナリティなど小説以外のジャンルでもマルチに活躍している。

めろんさんがメンバーの中で一番ロックな感じがする、生き方とかが。滝本、佐藤、めろんの3人は、15年くらい前からずっと仲がよくて、昔にもバンドを結成していたことがあって、その中に僕が最近入れてもらったという感じです。

A1.(バンドを始めた理由) 人生に常に怒りを覚えているので、生き延びるために音楽をやらなければいけないと思いました。

A2. (バンドをやってよかったこと)怒りを音楽に転換できたことです。

A3. (今後の目標)レッドブルとかを飲んで思いっきり音楽を鳴らしたいです!!!

A4. (その他ひとこと)世代的にグランジ直撃だったんですが、音楽的にはニルヴァーナよりもダイナソーJrに影響を受けました。脱力と暴力が同居しているところがすごく魅力で、いまのエリーツの音楽性にも反映されていると思います。
J・マスキスの音楽性は基本的にはポップな方向で、突き抜けた絶望が笑いみたいなものになっているんですが、本人もそういう人だと思うんですよね。上京してきてよかったのはあるイベントでJと握手できたことです。
日本のバンドで好きだったのはめちゃくちゃいっぱいあるけど初期V系(ヴィジュアル系)が好きでした。でも、基本的に中学校まではゲームミュージックとアニソンとイメージアルバムと声優の歌しか聞いてなかったなあ。00年代あたりもエロゲーのサントラばっかり聞いてた。日本の美少女アニメカルチャーとグランジが合体してるので、エリーツは正しくヴェイパーウェイヴ(インターネット上で生まれた音楽ジャンル)なんじゃないかなと思ってます。

すごくミュージシャンぽい回答だ……。めろん先生は僕より年上だけど、現状に不満を覚えていて全てを破壊したい、という衝動をずっと強く持ち続けているところがいいなと思っています。

ロベス(ベース)

某出版社勤務のサラリーマン。自称「年中モラトリアムのこじらせおじさん」。

ロベスはもともと滝本、佐藤、めろんの担当編集者だった。そこでみんなと仲良くなって、このバンドは仕事と関係なくやっているという感じだ。昔、結構ベースをやっていたらしい。

A1. (バンドを始めた理由)心の隙間を埋めるためという、完全に中二な理由です。仕事以外に、軸が欲しかったんですよね。実に痛々しい。

A2. (バンドをやってよかったこと)単純にみんなで音を出すと気持ちいい、ということですね。決してうまくはないですが、その瞬間は童心に帰れるし、主役になれる。

A3. (今後の目標)僕以外のメンバーはみな作家なので、自分も文章を書いていきたいですね。小説でもエッセイでもルポでも何でもいいのですが、自分の考えや意見を文章にしたい。

A4. (その他ひとこと)人生におけるターニングポイントは誰にでもあると思いますが、そのとき、心や風景にどんな音楽が流れていたかを聞きたいし、語りたいですね。

心の隙間を埋めるため、すごくいいですね。やっぱり仕事以外に何か心を支えるものがあった方が人生を楽しめると思う。バンドというのは創作の楽しみもあるし、単に音が気持ちいいという楽しみもあるし、仲間と集まれるという楽しみもあって、隙間を埋めるものとしてはすごくいいと思う。

 

せっかくなので曲の紹介もします。

まずは最初にできた曲、『おやすみマイエンジェル』を。これは滝本さんが小室哲哉をリスペクトしていて、「Get Wildみたいな曲をやろう」って言って、Get Wildそのままのコードを使って演奏したらできた曲です。「アスファルト 走る 車 速い」「こんな夜は寒いから冷えるね」といった情報量の少ない歌詞が、逆になんか落ち着く感じがするという名曲です。

もう一曲、『HAKUCHI』という曲もおすすめなのでよかったらこちらから見てみてください。これは海猫沢めろん作詞作曲で、ボーカルはユヤタン。激しいギターロックですね。ドラムも叩いていて気持ちいい曲です。

小さな目標を持つことで楽しみがさらに広がる

最近は、バンド以外にもこのメンバーでいろんな活動をやっていきたい、ということになって、同人誌を作ったり、ユーチューバーみたいなことをしたり、ネットラジオをやったりしています。手作りで何かを作っていくのは楽しい。

これはバンドメンバーで同人誌を作っている画面です。僕はこのためにInDesign(インデザイン)の使い方を覚えました。今年の5月の文学フリマ東京で売る予定だったのだけど、新型コロナウィルスの影響で文フリが中止になってしまったので、ネット通販や書店で販売する予定です。

これは僕がバンドのことを描いてみたマンガです。このためにペンタブとクリスタを買って、絵の練習をしました。今までやったことがないことを覚えるのは楽しい。

 

 

バンドを起点にして、いろんなジャンルにやることが広がってきていて、次は何をやろうか、と考えていくのがすごく楽しい。こういうことを成し遂げたい、という大きな目標があるわけじゃないけど、やりたいことを片っ端からやっていたらいつの間にかいろんなことをやっていた、というような感じになったらいいなと思っている。エリーツの活動はYouTubeで更新しているのでよかったらチャンネル登録してください。

 

 

創作というのはもっともお金のかからない趣味だ、と僕は昔から思っている。何か、なんでもいいから、自分たちで工夫して何かを作っていくこと。それが人生で一番楽しいことだと思う。

 

僕らの場合はそれが音楽(そして同人誌やYouTubeなど)だったけれど、別にカレー作りでもパン作りでも麺作りでも何でもいいと思う。

 

誰でも何か好きなものはあると思うので、自分の好きなもので仲間を探して、一緒に何かを企画して人を集めてみる、というのをやってみると、やりがいもあるし、友達もできるし、結構いいと思います。

 

いろいろと大変な世の中ですが、楽しいことを集めながらなんとかやっていきましょう。

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この記事を書いた人
pha

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

毎日寝て暮らしたい。著書に『しないことリスト』(だいわ文庫)、『どこでもいいからどこかへ行きたい』(幻冬舎文庫)など。2019年からエリーツというバンドを始めました。

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