暗号通貨
鮨店は行きづらい……という初心者にもおすすめしたい、ホスピタリティーと発見がある都内の鮨店2軒
鮨専門ブログ「すしログ」を運営する大谷悠也さんが、自分へのご褒美に訪れる都内の鮨店2軒を紹介します。両店に共通するポイントは、ホスピタリティーと発見だそう。初心者に向けた“回らない鮨屋”での注文方法などレクチャーします。
「すしログ」というブログを運営している、大谷と申します。名前の通り鮨(すし)をメインに扱っており、日本料理や和菓子のお店・文化も紹介しています。
ブログを始めようと思ったきっかけは、鮨がひたすら好きだから、に尽きます。
ブログを開設した2015年頃、鮨を専門にしたサイトやブログはほとんどありませんでした。また、当時から若い人たちにとって「鮨店は敷居が高い」というイメージが強く、行きづらいと考えている方も多いように感じたのです。
僕は20代半ばに、いわゆる「回らない鮨屋」の魅力を知り、以来お金をやりくりしながら鮨店を巡っています。それから10年以上の間に訪れたお店の数は数百軒。ブログを開設してから約4年間だけでも、300軒以上のお店に足を運んでいます。東京に限らず津々浦々のお店を巡り、江戸前鮨だけでなく、郷土寿司も食べ歩いている次第です。
そして、僕は上記のような自分自身の経験に基づき、鮨は若い人でも楽しめると捉えております。確かに値段が高めのところもありますが、値段以上の価値がありますし、必ずしもお金持ちのための料理ではなく、すべての人のための料理ではないかとも考えているのです。やりくり次第で、若者でも食べられるのが鮨です。
なのでこの記事では、ブログを書いているときと同じく「鮨は、若い人でも楽しめるジャンルだ!」という思いを込めてつづっていきたいと思います。
僕にとってのご褒美は「自分自身に与えるもの」
普段、僕はメーカーで営業職に従事しています。そして高額の案件を受注したときや、難しいプレゼンテーションが成功したときなどは、多くの場合「ここぞ」という鮨店へ行きます。
僕のブログを見た方は「普段から鮨を食べているなら、特別感もなさそうだし、全然ご褒美にならないのでは?」と思われるかもしれません。
ですが、僕にとっての「ご褒美」は、自分が目標を達成したときに、自分自身に与えるもの。そういうときに食べる料理は、たとえ普段から食べていたとしても、自分を慰撫(いぶ)したり鼓舞したりしてくれるのであれば「ご褒美」に該当するのではないかと思うのです。
なので、ご褒美に鮨を食べるときは、友人と一緒ではなく一人でじっくり食すことを選びます。よって、基本的にカウンター席しかない鮨店は、僕がご褒美ごはんを食べるうえで最適の選択になるのです!
ここからは、僕自身の経験に基づいた鮨店の楽しみ方を紹介します。
初めてでも大丈夫。鮨店の魅力と楽しみ方
鮨店の魅力は、なんと言っても雰囲気の良さにあります。
暖簾をくぐり、決して広くはない空間に身を滑らせ、椅子に落ち着く。凛とした空気感の中、丁寧に磨かれたカウンターに掌をなじませ、熱いおしぼりで手を拭う。この一連の動きで、すでに癒やしの効果があると思います。
そして、カウンターを隔てた目の前の親方から「何になさいますか?」の一言。お酒を頼んで喉を潤し、すぐに握りをいただいてゆく……。キリッとした空間で無駄のないやり取りと食事を楽しめる料理は、鮨以外に考えつきません。
注文方法は「お好み」「おまかせ」「おきまり」の3つ
とはいえ、いきなり「何になさいますか?」と聞かれると思うと、鮨店にあまり行ったことがない方にとっては「やっぱり足を運びづらいな……」と考えるかもしれません。
しかし、決して臆することはありません。最近は自分で好きな鮨を注文できる「お好み」というスタイルを提供するお店が少なくなり、大半のお店が、職人のおすすめをいただける「おまかせ」か、値段に応じていくつかのコースが設定されている「おきまり」を用意しているからです。
注文の際も「おまかせ」または「おきまり」と伝えればOKです。鮨好きとしては、「お好み」で注文できるお店の減少は残念ではあるのですが……。「おまかせ」のみ提供している場合は、お店のサイトに前もって書いてあるか、親方から伝えてくれるはずです。
ただ、もしそのお店が「お好み」を提供しているのであれば……ぜひこちらの注文方法を試してみてください。予算を決めておき、あらかじめ職人に伝えておくと安心です。
店内に種札(木の札に魚の名前が書かれている、あれです)が掲げられていれば問題ありませんが、ない場合は職人に「白身なら何がありますか?」「光物は何がありますか?」というふうに尋ねてみましょう。魚の区分は、白身・イカ・貝類・赤身・光物(青魚)・煮物・巻物などが用意されています。挙げられた中から気になったものを2〜3種類伝えれば、注文完了です。
食べる順番は「白身から」が鉄板
よく言われる「食べる順番」については、上記の通り、白身・イカ・貝類……といった順番で大体OKです。正解はないので、好みで頼めば大丈夫です。
ただ、個人的には白身から食べるのは鉄板だと思います。白身魚は一般的に脂が少なく、味わいとしては淡白ですが、旨味が強く、香りを楽しめるからです。なので、脂や香りの強いタネ(実は、ネタではなくタネが正しい表現)の後だと、白身魚の良さがわかりづらくなってしまいます。強い味の魚の前に楽しむのがベストです。
値段は明朗会計なので安心
そして「値段」について。これも現在はネットでほぼ可視化されているので、安心と言えます。一昔前は不適正価格を要求するお店も存在しましたが、現在はネットが普及したお陰で適正価格が浸透しています。
ただ、価格帯が高すぎるバブリーなお店は、お酒のラインアップが高級であったり高額であったりしますので、想定以上に高くつく危険性があります。
|
|
ご褒美ごはんにぴったりな、都内の鮨店2軒
さて、長らくお待たせしました。ここからは、僕がご褒美ごはんにふさわしいと思っている都内の鮨店を紹介したいと思います。今回は「予算」「雰囲気」ともに20〜30代前半の方でも安心して利用できる2軒を選びました。
鮨でサプライズを感じることができる「鮨處やまだ」
1万5,000円〜2万円(おまかせ15貫 15,000円+お酒)
特徴
筆者が20回以上通っていながら飽きない
誰にとってもサプライズのある鮨
「鮨處やまだ」は、銀座7丁目のビルに入っているお店です。知らなければたどり着けないような奥まった場所にありますが、連日お客さんで賑わっています。酒肴(おつまみ)もガリも出さないという変わったスタイルで、コースは「おまかせ」のみ、握り15貫から成ります。
さて、特徴として「筆者が20回以上通っていながら飽きない」と書きましたが、その理由であり、このお店の魅力の一つでもあるのが、お店の親方である山田さんが使用するタネの豊富さ。ほかでは使われないような魚や、地方の鮨店でしかいただいたことのない魚なども味わうことができます。
「幻の魚」と呼ばれるイトウが登場したときは心から驚きました! イトウをはじめ、伝統的な江戸前鮨では用いられない魚を取り入れつつも、調理法は〆る・漬ける・煮る・寝かせるといった伝統的な江戸前仕事そのもの。それで巧くまとまっているところがすごい。そこから必要に応じて熟成が加わり、独自の世界観が展開されています。
ちなみに、ここでいう「熟成」とは、伝統的に存在した「寝かせる」という仕事が発展したもの。通常よりも長く寝かせることで、旨味を引き出します。
こちらのお店でいただく「おまかせ」の一貫目は、白身魚がほとんど。親方が白身魚の香りを大切にされているのがわかります。
熟成で有名なお店として扱われがちな同店とはいえ、親方は必要以上に熟成をかけることはされません。牛肉の熟成がブームになって以来「熟成鮨」という言葉が独り歩きしておりますが、本質的に熟成は諸刃の剣とも言えます。熟成させた白身魚は旨味こそ高まるものの、持ち味である食感と香りが弱くなっていくからです。
なので、腕の立つ職人は旨味・食感・香りを見極めながら白身魚の熟成を行います。「熟成鮨」のコンテクスト(文脈)では熟成をかけることが正義と表現されがちですが、決してそうではありません。
そして、面白いのが「野菜鮨」です。
芽ネギを海苔で巻いた握りなどがあるといかにも大衆的な寿司のように思えてしまいますが、山田親方の椎茸の握りは完成度が非常に高いです。椎茸の旨味と香りが酢飯の酸味にピッタリ合い、魚とは異なる魅力を提示してくれます。
この椎茸の握りが生まれた理由も面白くて、かつて魚を一切食べられないお客さんが予約をされたときに、野菜だけで15貫握る必要に駆られて出した一品なのだとか。まさか鮨店でそんなお客さんを受け入れるなんて……。チャレンジが大好きな山田親方らしいエピソードです。
そう、チャレンジと言えば、こちらの甘海老の仕事が頭に浮かびます。
通常はそのまま握る甘海老ですが、山田親方は包丁で身を叩いてから握ります。こうすることで甘海老がほぐれ、瞬時に舌をコーティングしてくれるので、持ち味の甘味がぶわっと口の中に広がります。
甘海老に限ったことではありませんが、使用するタネだけでなく調理法も試行錯誤している点に、誰もがサプライズを覚えるのだと思います。
そして忘れてはならないのが、武士の甲冑のようなフォルムをしている小鰭(コハダ)。同店が自信を持って出しているスペシャリテで、小鰭好きには堪らない鮮烈な魅力があります。
〆加減が良いので、酢飯と自然になじみながらも、口の中で圧倒的な存在感を示してくれます。さらに旨味や香りを楽しませつつ、意外にも上品な余韻へと導いてくれます。大きな小鰭を美味しく仕上げるのは難しいことですが、こちらのお店はいつ訪問しても素晴らしい味を堪能できます。小鰭が美味しい鮨店は、信頼に足るお店です。
鮨處やまだは、お酒のラインアップも素晴らしいです。時期によって変わるレアなお酒や人気銘柄のお酒も1杯1,000円で提供されていて、明朗会計。お酒が好きな方は、酔わない程度に鮨と一緒に楽しまれてください。
やまださんでは、おまかせを頼むと、15貫が一気に繰り出されます。タネごとの味の起伏も大きく、食べ終えた後に清々しさを覚えるかと思います。どのお客さんも笑顔になっておりますので。
名店仕込みの職人技が堪能できる「鮨みずかみ」
2万2,000円(握りの「おまかせ」20貫ほど+お酒1合)
特徴
名店「すきやばし次郎」で15年修行された親方のお店
若い方の来店を歓迎している
2軒目の「鮨みずかみ」は、鮨店はもちろん、飲食店が決して多くはない半蔵門にあるお店です。握りだけの「おまかせ」をお願いすると、20貫ほどいただくことができます。タネの構成はクラシカルで、昔ながらの江戸前鮨を現代的な調理で味わえる点が魅力だと感じます。
価格帯は少し高めですが、味・雰囲気ともに上質。費用対効果を考えると、鮨店にあまり行ったことのない若い人にこそ足を運んでいただきたい一軒です。意外性のある立地や内装も「ご褒美」のテンションを高めてくれるでしょう。
また、親方の水上さんは鮨の名店「すきやばし次郎」で15年も修行された方で、硬派な江戸前仕事を継承されております。
すきやばし次郎は映画化されたほど有名なのでご存じの方も多いと思いますが、親方の小野二郎氏は、寿司職人としての数々の新しい“仕事”を生み出されてきたレジェンド。都内屈指の名店で、修行がハードなことでも知られています。そこで15年間も働かれた水上親方は、職人中の職人と言えるのではないかと思います。
ぜひ食べていただきたいのは、煮蛸。煮蛸を握る若手職人が少なくなってきている今、酢飯が美味しいお店でいただけるとなると格別です。噛みしめると蛸の香りが広がり、酢飯の酸味が味を引き締めます。蛸は食感と香りを生かすと同時に、酢飯と融合させることが重要です。
鮨で最も重要なものは酢飯だと思いますが、こういったシンプルなタネで酢飯を噛みしめる喜びこそ、優良店・名店ならではです。
小鰭は、軽くひねって握るのがすきやばし次郎流。何とも粋な佇まいです。そして、しっかりと〆て小鰭の魅力を引き出しており、噛みしめるごとに味わいが深まります。小鰭の旨味が溢れ出て、香りがグイグイと高まります。〆加減は昔の江戸前仕事に近いですが、現代的な味わいの酢飯と絶妙に合っています。
繰り返しとなりますが、小鰭が美味しいお店は間違いがありません。そうしたお店では、すぐに飲み込まず、じっくりと咀嚼して小鰭を楽しんでください! 味わいの変化に驚かれると思います。
鮪の仕入れは有名仲卸の力が強く、良い鮪は超高級店に流れがちなのが現状です。しかし、水上親方は他店であまり使わない仲卸から鮪を引かれているとのこと。味もとても美味しいのです。旬の時期(秋〜初冬)に伺えば、必ず満足させてくれると思います。
蛤(ハマグリ)も昔ながらの「漬け込み」で、絶品。味付けが控えめなお店が増えている中、こちらで食べられる深い味わいの煮蛤は一周回って新鮮です。独特の味わいに、ハマる方も多いのではないでしょうか。
美しい色合いの鰹は、すきやばし次郎仕込みの藁による炙りでいただくことができます。燻された香りは、酸味と旨味の強い鰹との相性も抜群。そして、水上親方が手掛ける端正な味の酢飯がしっかりと味を支えます。
王道のタネを使いつつ、用意されているタネの数が多いので、時期折々の味を楽しませてくれるお店が鮨みずかみです。20貫にも及ぶ握りで構成されても決して食べ疲れることがありません。「鮨を食べ尽くした!」という満足感が大きいお店です。
ただ、同店に限ったことではありませんが、鮨に使われる魚は旬に基づいているので、回転寿司のように年がら年中同じタネを出すお店はありません。「Webで見た○○を食べたかったのに旬じゃなかった!」ということがあれば、またご褒美の機会を作って再訪してみてください!
翌日からの糧となるものこそ、僕の「ご褒美」
ご褒美を楽しみたい鮨店として、自信を持っておすすめできる2軒を紹介させていただきました。特徴や味わいが大きく異なる両店ではありますが、共通点は「親方のホスピタリティー」と「新たな味の発見がある」に尽きると思います。
冒頭でも触れたように、鮨店はそのお店の雰囲気も大切ですが、鮨職人のホスピタリティーも重要だと僕は考えています。
ここで言うホスピタリティーとは、劇場的にお客さんを盛り上げることや、お客さんにへりくだることでは決してありません。たとえ寡黙な職人さんでも、その確かな仕事ぶりでホスピタリティーを感じさせる方は多いです。訪れたお客さんを満足させることに長けている職種の一つとして、僕は「鮨職人」を挙げたいです。
そして、もう一つの共通点である、新たな味の発見。鮨處やまだでは未知のタネや職人技と遭遇でき、鮨みずかみでは王道のタネながら高度な味に仕上げられているという発見があります。ベクトルは異なりますが、どちらも紛れもない鮨の魅力です。
いずれも実践は難しいことなのに、日常的にクリアしているというところに、職人としてのすごみを感じさせられます。そしてこれこそが、僕にとって鮨を「ご褒美ごはん」たらしめている理由なのだと思います。
最後に。僕はご褒美として鮨店を訪れる際、食べ終えた後に解放感=カタルシスを味わえるようなお店を選ぶようにしています。なぜなら、一時的な自己満足ではなく、翌日からの糧となるブースターになるものこそが真の「ご褒美」ではないかと思うからです。
今回紹介したお店が、この記事を読んでいただいた方の糧となることを願っております。
|
|
※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。