映画館へ行きませんか。映画館には「小さな旅」がたくさんある

リリース日:2022/07/20 更新日:2024/08/14

映画鑑賞が好きなブロガーのCDBさんが、「映画館で見る面白さ」を紹介します。「映画館は『小さな旅行体験』を得られる場所」と話すCDBさん。そう思うきっかけになった映画館での体験や、関東近郊のおすすめの映画館を紹介します。

  1. 1回、約2,000円。僕にとって映画館の対価とは
  2. 映画館は「小さな旅行体験」を得られる場所
  3. 映画館に行こう

映画が好きで鑑賞した映画のレビューをブログで紹介するCDBです。学生時代から映画鑑賞を始め、社会人になった今も週に2~3作品、年間で100作品近く見ています。

 

同じ趣味を持つ人は多いと思いますが、僕には映画を鑑賞するにあたって1つだけこだわりがあります。

 

それは「映画館で見る」こと。

 

さまざまな動画配信サービスが充実する中、なぜ映画館なのか。こうなったわけには映画館での数々の体験が影響しているのですが、それらが積み重なることで僕の映画好きも加速していったように思います。

 

今回は「映画館で見ることの面白さ」について紹介します。

 

§

1回、約2,000円。僕にとって映画館の対価とは

2018年、第41回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した蒼井優さんのスピーチは感動的なものだった。内容はこのようなものだった。

これから新学期が始まりますけど、学校がつらい方、新しい生活どうしようと思っている方はぜひ映画界に来てください。映画界って良くないですか?私、本当に好きなんです(※)

(※)……日本アカデミー賞協会のTwitterより引用。引用元ツイートはこちら(引用日:2019年6月17日)

たぶんそれは、小学生時代にいじめに悩んだり、学業と女優の両立に悩んできた蒼井優さんが、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』という素晴らしい作品の撮影現場で湧き上がってきたという、素直な気持ちの吐露だったのだと思う。

 

でも実を言うと、僕はその時、蒼井優さんの言葉を聞き間違えていた。彼女のスピーチを聞いた時、僕は映画界ではなく「映画館に来てください」と彼女が言ったように聞こえたのだ。まあ、残念ながら僕には映画界に行ける可能性が微粒子レベルにも存在しないのでそう聞こえたのかもしれないけど。

 

でもこれは僕だけではなく、その時のSNSには僕と同じように「映画館に来てください」と聞き違えた人がたくさんいた。何を隠そう日本アカデミー賞の公式ツイッターアカウントも聞き違えて「映画館に」と書き起こしてしまっていたくらいだ。

 

ともかくその放送当夜のSNSでは、「高校時代や会社員時代、人によりタイミングやシチュエーションは違えど社会への適応に悩んだ時、映画館がある種の避難場所になったこと」を多くの人が書きつづった。それはこの社会に生きる人のある種の共通体験なのだと思う。

 

僕自身の記憶を振り返っても同じだ。高校時代の僕にとって、地元の小さな映画館はある種の教会とか、心を落ち着けるセラピールームのようなものだったなと思う。当時の僕は特に映画マニアではなく、古今東西の俳優や監督の知識が湯水のように流れ出るタイプの少年じゃなかった。ただ心に響いた映画を何回も何回も繰り返して見ていた気がする。スクリーンに映し出される光の映像情報と同じくらい、その周りを埋める静かな暗闇の方が高校生の僕には必要だったのかもしれない。

 

大人になってもそれは同じだ。映画をよく見に行く、と言うと「お金もったいなくない?」と言われることが多い。確かに大手シネコンが一般料金を1,900円に値上げしたのは懐に痛いし、海外との比較でも、もう少し日本の映画料金は安くなってくれてもいいのになとは思う。以前からあるレンタルDVDに加えて、今は動画配信サービスで過去の名作が定額見放題で見られる時代、割高と感じる人も多いのかもしれない。

 

でも僕は、なんだかんだ言って映画館に行くのが今も好きである。それは公開される新しい映画を早く見たいとか、迫力のある劇場の大きなスクリーンで見たいというのももちろんあるにはある。

 

でも僕は結局、生まれて初めて劇場版のアニメ映画を見上げた場所、子供のころから慣れ親しんだ場所として映画館に今も思い入れがあるのだと思う。加えて、これは映画を見に行くにつれて強く思うようになってきたことだけど、僕にとって映画館に行くことは、約2,000円で「小さな日帰り旅行」に出掛けるような感覚があるのだ。

 

作品そのものの面白さはもちろんだが、そこに「特別な旅行体験」も合わさったとき、それはより強い思い出となって記憶に刻まれ、作品と体験は混じり合った1つの記憶として残る

映画館は「小さな旅行体験」を得られる場所

では映画館にはどんな旅行の要素があるのか。

それには「映画館での体験」が関係することもあれば、「さまざまな映画館に足を運ぶ」という行為そのものも影響している。

ここでは僕が映画館に感じる「旅行」について、詳しく紹介しよう。

【1.観客の間に漂う空気が“非日常感”を生み出す】

映画が旅の目的地だとしたら、映画館で出会う他の観客たちを、たまたま同じ目的地の列車に乗り合わせた、あるいは旅先で出会った他の旅人のように感じることがある。

 

2016年に巨大なヒットを記録した2つの映画、『君の名は。』と『シン・ゴジラ』の観客〈旅人〉はまるで別世界からやって来たように違う雰囲気だった。

 

カップル客やご年配の方から子供まで、まったく世代や文化の違う観客を楽しませた『君の名は。』に対して、大量の情報量と圧倒的なスピード感で新しい時代の怪獣映画を見せた『シン・ゴジラ』の客席は深く感応する観客と、情報の洪水の前にキツネにつままれたように帰っていく観客に真っ二つに分かれていた印象がある。それは「広さ」と「鋭さ」という相反する価値観のどちらに映画の方向性を定めるか、がもたらした鮮明な対比だった。

 

これも記録的なヒットとなった『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』の客席は、『踊る大捜査線』など過去の大ヒット作の熱狂的で祝祭的な雰囲気とは少し違った空気だった。それは災害の現場で人を救う救急医たちを10年またいで描き続けた『コード・ブルー』というドラマシリーズの1つの節目の劇場映画化を見に集まった観客たちで、2008年から2018年までの10年間に亡くなった人たちを悼むような(その10年にはあの震災も含む)、不思議に静かな空気だった。

 

『コード・ブルー』の大ヒットの要因は、マーケティング的な分析がいろいろとされているのかもしれない。でも僕は自分が映画館で見た、あの静かで真摯な空気、『コード・ブルー』に自分の悲しみ、失った人たちを重ねるような老若男女の観客たちのしめやかな雰囲気を忘れないと思う。あまりに大きな商業的な成功に目を奪われがちだけど、たぶん『コード・ブルー』は悲しみの物語だったのだと思う。

 

映画館は観客〈旅人〉が違うだけで空気ががらりと変わり、それだけでいつもと違う非日常感を味わえる。それは多くの見知らぬ観客と暗闇の中で1つの光を見上げる、映画館でしか体験できない感覚のように思う。そして、観客と作品はいつも深く関わり合い、影響しているような気がするのだ。

 

フレディ・マーキュリーの生涯を描き世界の映画市場を席巻した『ボヘミアン・ラプソディ』は、映画館の音響のめざましい進歩が映画体験を根本的に変えてしまったひとつの例だと思う。

 

昭和の映画館とはまったく違うレベルの最新音響が可能にしたライブ音質のクオリティは、いわば1,800円の割安チケットで体験できるバーチャルライブのようなレベルと言われ、数多くのリピーターを生んだ。公開終盤には、NHKで特集が組まれるほどの社会現象になったこともあって、かつてのクイーンファンどころかおよそ洋楽に縁のなさそうな高齢層、老夫婦の姿が劇場にたくさん見えたものだ。

 

僕が「TOHOシネマズ 川崎」で見た時は、車椅子の家族を連れた数人の観客がいた。暗闇なので詳しい様子はわからなかったが、車椅子の人が劇中に何度か声を漏らすことがあった。周囲の観客は誰も責めたりはしていなかったが(そんなに大きな声でもなかったのだ)、付き添いの家族はそれを気にしている様子で、映画中盤でついに車椅子を押して映画館から退席しようとし始めた。

 

「気にしなくてもいいですよ」と声を掛けようかとも一瞬考えたけど、席も離れていて見送ることしかできなかった。その時、映画はあのクライマックス、『ライブエイド』のライブシーンにさしかかった。TOHOシネマズの優れた音響は、車椅子の家族が漏らす小さな声を大波のように洗い流していった。

 

劇場の出入り口まで車椅子を押して退場しかけていた家族は、音楽の美しい洪水が劇場を満たして、小さなノイズはもう誰の耳にも届かないことに気がついたのだと思う。劇場の出入り口付近で車椅子を止めて(別に席に戻ってきたってよかったと思うのだが)、ずっとスクリーンを見上げていた。

 

それが僕の『ボヘミアン・ラプソディ』についての最も印象深い記憶の一つだ。

 

劇場で起きた現実の出来事ではあるのだけど、その車椅子を押した家族は、作中でラミ・マレック演じるフレディ・マーキュリーが移民として疎外されたり、同性愛者として社会や仲間との軋轢(あつれき)に苦しんだりする映画の中の物語と地続きにつながって思えた。そしてまるで車椅子の家族のために演奏するかのように虚構のスクリーンの中で始まったライブシーンは、『ボヘミアン・ラプソディ』という映画の本質に触れたように、僕の中に今も強く刻まれている。

こんなふうに、映画館で起きたことの思い出なら僕はいくらでも書くことができる気がする。それは旅の記憶のようなものだ。

 

もちろん実際の旅が良いことばかりではないように、映画館で不快な思いをすることもある。こんなことなら一人でDVDでも見ていればよかったなと思わないこともない。でも自分とは違う他者と出会うというのは結局そういうことなのだと思う。リスクのない旅なんて旅ではないのだ。

【2.映画館の特色を駆使すれば、特別な体験ができることも】

実は映画館という場所は地域ごと、施設ごとにけっこうな特色がある。桜木町の「横浜ブルク13」では映画の上映前の注意が日中英の三言語の字幕で出るムービーが流れる。これはティ・ジョイグループで制作しているもので、外国人客も多い横浜ブルク13にマッチしている(この上映前の注意のムービーは映画館の腕の見せ所みたいな所があって、いつも楽しみに見ている)。

 

横浜駅からすぐの109シネマズ「ムービル」は入会手数料1,000円は必要だが、会員登録するだけで土日構わず何曜日でも1,100円で映画が観られてしまう(2019年6月現在)。破格の値段で映画が見られるうえに、この映画館は「相鉄ムービル」という前身からの独特の経緯があるせいか、他の109シネマズ系列でかからないような単館系の映画も扱ってくれる(例えば韓国映画『1987、ある闘いの真実』とか)。映画ファンにとってはなかなかにありがたい映画館になっている。

劇場の形状も劇場ごとに全然ちがう。まるでオペラ劇場のように客席が高くせり上がってスクリーンを見下ろすばかりになっている劇場もあれば、巨大なスクリーンを観客が見上げるコンサート型の劇場もある。あえて名前は挙げないが駅に近い映画館では、電車が通るとゴトゴトと揺れてお金も払わないのに4DX状態を味わえるところもある(ははは)。

 

池袋の「新文芸坐」はいかにも歴史のある古めかしい映画館なのだが、中で上映を見てみると最新のシネコンにも劣らない、オーディオマニアの家でクラシックを聴いているように美しい音響を楽しむことができる。そういういろいろな映画館に出会うこともひとつの楽しみである。

【3.今までなら目に留まらなかった名作品に出会える】

映画館が教えてくれる情報、というのもある。

 

2019年4月に公開した映画『愛がなんだ』は、5月中旬になっても劇場が満席を連発していた。もともとが公開規模の小さい映画ではあるから、映画ランキングで『コナン』や『アベンジャーズ』といった大作と比較すれば小さな動員数でしかなく、テレビで報じられるわけでもない。

 

でも小さな劇場の連日の売り切れマークは、その映画が予想を大きく覆すような何かを持っていることを僕らに教えてくれる。そしてその通りに『愛がなんだ』はやっぱり特別な映画だったのだ。

 

どうにか平日最終回のチケットを手に入れた僕が映画館で見たのは、テレビの地上波で特に宣伝しているわけでもないこの映画のことを友達から友達に聞き伝えた高校生や若い世代の観客だった。それらは近年まれに見る口コミの動員に見えた。片思いの依存と自立の葛藤を描いたその映画は、同世代の観客を強く捉える映画になっていた。

 

映画が終わって劇場を後にする彼らが交わしていた『愛がなんだ』の感想は、映画雑誌にもブログにも掲載されることはないだろう。でも隣の席の友人や恋人に向けた彼らの話し言葉の感想は、どんな批評よりも映画を芯でとらえているように思った。そういう言葉(声、と言った方がいいかもしれない)に出会えるのは、映画館という場所の醍醐味であるように思う。

 

僕にはそうしたことが「小さな旅」のように思える。映画という見知らぬ旅先で、観客という見知らぬ旅人たちに出会う旅。旅人たちは、ある時は同じ場所を目指す旅人であり、またある時はずっと前からその場所を知る地元の人のように感じることもある。




映画館に行こう

1960年代後半に日本の家庭にカラーテレビが普及した時、映画の動員人数は大きく落ち込んだ。当時は斜陽産業と言われ、行く末を悲観する声も多かったようだ。でもこのインターネットとバーチャルリアリティの21世紀においても、映画館という場所はまだ当分は僕らの大切な場所、社会の一部として生き延びて行くんじゃないかなと思う。

 

だから最初に引用した蒼井優さんのコメントはもちろん女優としての彼女の思いがこもった誠実なものだったと思うのだけど、僕らがSNSで聞き間違えた内容もそんなに大きく間違ってはいなかったんじゃないかなと思う。

「これから新学期が始まりますけど、学校がつらい方、新しい生活どうしようと思っている方はぜひ映画館に来てください。映画館って、良くないですか? 私、本当に好きなんです」

§§§

 

映画にあまり興味がないという人も、既に映画鑑賞を趣味とする人も、たまには映画館に足を運んでみませんか? レンタルや配信に比べれば、少し割高かもしれません。でもそれは僕にとっては2,000円の日帰り旅行です。月に10回見ても2万円、本物の旅行よりは少し割安に上がります。僕にとっては小さな旅行ですが、ある人にとっては祈りを捧げる教会のミサかもしれませんし、またある人にとっては最高音質のライブハウスかもしれません。映画館って、良くないですか?

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※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

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