増え続ける交通難民|公共交通の現状と交通難民を救う新たな取り組みとは

リリース日:2022/03/03 更新日:2022/03/03

自身で交通手段を持たない、公共交通に頼らざるを得ない交通弱者の人が、公共交通の減少によって交通難民として増加を続けています。この記事では、交通難民の実態や、解決に向けた対策について解説します。

増え続ける交通難民|公共交通の現状と交通難民を救う新たな取り組みとは
  1. 交通難民とは
  2. 交通難民が増加する原因
  3. 地域公共交通の現状と課題
  4. 交通難民対策への取り組み
  5. 交通難民を救うため、会社や各自治体の取り組みに期待

交通難民とは

増え続ける交通難民|公共交通の現状と交通難民を救う新たな取り組みとは

交通難民とは、日常生活における交通手段に不自由を強いられている人のことです。以下、詳しく解説します。

 

・公共交通に頼らざるを得ない人
交通難民とは、自身で交通手段を持たず、移動には公共交通に頼らざるを得ない人のことをいいます。その中でも、特に交通機関の整備状況などのため、日常の生活に不自由をきたしている人のことを指すのが一般的です。大都市圏よりも公共交通の整備が不十分な地方で交通難民の問題は深刻になっています。

 

・主に年少者や高齢者などが直面している
交通難民の多くは、年少者や高齢者、障害者です。自動車を運転しない、またはできない人が移動する場合は、電車やバスなどの公共交通に頼らざるを得ません。

 

・特に地方の中小都市で顕著に現れている
交通難民の問題は、大都市圏以外の地域で顕著に現れています。過疎化によって人口減少が進み、不採算に陥った公共交通は減便や路線の廃止を余儀なくされます。公共交通の利便性が低下した地方での交通難民の発生は、大都市圏ではあまり見られない問題です。

 

・交通弱者や買い物難民との違い
交通難民とよく似たものに「交通弱者」や「買い物難民」という表現があります。交通弱者と交通難民はほぼ同義で、年配者や高齢者など交通難民になりうる人を交通弱者と呼びます。

 

買い物難民とは、交通手段を持たない、または障害などの理由で、日常的な買い物を自在に行くことができない人のことです。小売業や飲食業を中心に、買い物難民を対象とした宅配サービスや移動販売車サービスなどの需要が高まっています。

交通難民が増加する原因

交通難民が増加する原因

交通難民が深刻化している背景には、何があるのでしょうか。交通難民が増加してしまうメカニズムについて解説します。

 

原因1.大都市への人口集中と地方の人口減少
高度経済成長期において、人々は働き口と生活の利便性を求め、3大都市圏への移住が加速しました。結果的に、働き口の少ない地方部では人口が減少し、過疎化が進んでいます。

 

地方の公共交通では利用者の減少にともない収益が悪化し、不採算路線の減便や撤退を余儀なくされます。公共交通の減少は、地方に住む人々の交通手段をさらに不自由にし、利用したいのに利用できない、交通難民が増加するようになりました。

 

原因2.自家用車の普及拡大
公共交通の減少にともない、自家用車の必要性がさらに高まることになります。自家用車の普及が拡大し、移動や買い物に自家用車の利用が増えれば、ますます電車やバスの利用客は減少することになります。

 

こうした悪循環により、自分の足を持たず移動に不自由さを感じている交通難民が次々に増加していくことになりました。

 

原因3.高齢者の交通事故の増加
近年深刻な問題とされているのが、高齢者の交通事故の増加です。自動車運転における判断能力の低下や病気によって起こる痛ましい交通事故のリスクを減らすため、警察庁は高齢者に運転免許証の自主返納を呼びかけています。

 

自動車の運転をしなくなった高齢者にとって、数少ない交通手段は電車やバスなどの公共交通です。外出機会は減るとはいえ、移動の自由が制限されることになり、交通難民になってしまいます。

地域公共交通の現状と課題

地域公共交通の現状と課題

自力での交通手段を持っていない地方の交通難民にとって頼みの綱ともいえる公共交通は、現在厳しい経営環境の下に置かれています。地域公共交通を取り巻く状況をまとめました。

 

・少子高齢化の現状
少子高齢化が進む現代社会において労働力人口が減少する中、企業の主要部門が集中する大都市圏は貴重な労働力を地方から吸い上げています。若い人が仕事を求めて大都市に向かうため、地方の人口は減少の一途をたどり、地域公共交通の利用者数は減少してしまいました。

 

・自家用車利用率の上昇
自家用車が普及し、その利用率が高まったことも、地域公共交通にとっては大きなダメージといえます。

 

大都市圏と異なり、地方は大型の病院やショッピングセンターなどが郊外にあることが多く、利便性を考慮すれば日常生活には自家用車の利用が欠かせません。自動車の利用率が上がることで、ますます地域公共交通の利用は減少していきます。

 

・交通事業者の厳しい経営状況
人口の減少や自家用車の利用増加にともなって利用客が少なくなれば、地域公共交通の経営状況も悪化します。収益悪化を改善するためには、減便や路線の見直しを図らざるを得ません。

 

減便や路線見直しを行えば、利便性は低下し利用客はさらに減少していくという、悪循環に陥ってしまうのが現状です。

私は運転免許証を持っていないから、困る時が多々あるわ…

交通難民対策への取り組み

交通難民対策への取り組み

増え続ける地方部の交通難民の問題を解決するために、各地域ではさまざまな取り組みが実践されています。

 

1. コミュニティバスの導入
コミュニティバスとは、公共交通の維持が困難な地域で自治体が運行している公共交通サービスのことです。

 

市町村など各自治体が運行主体となるため、民間の路線バスと比べると、地域の事情に合わせた運行ルートの設定が可能となります。住宅街の狭い路地なども運行できるため、地域に根ざした交通手段が確保でき、生活の質を改善させることができます。

 

また、運行主体が各自治体であるため、民間路線バスよりも安価な価格設定が可能である点も、利用者にとっては嬉しいポイントです。

 

2. スクールバスの活用
文部科学省は、公共交通の利便性が低い地域においては、生徒が利用するスクールバスに近隣住民が同乗することを認めています。コミュニティバスと同様に、公共交通の便が悪い地域の住民の足として、重要な交通手段です。

 

しかし、スクールバスはあくまでも生徒の通学利用が主たる目的であり、コミュニティバスとして利用する場合、利用者はその点に十分配慮する必要があります。また、クラブ活動の有無やテスト期間など、生徒の利用時間が前後する場合もあるため、どの地域でもスクールバスが利用できるとは限りません。

 

3. デマンド型交通の導入
デマンド型交通とは、運行ダイヤや発着地について、利用者の事情に合わせて自由に組み合わせることができる方法です。それぞれの地域の状況に応じた柔軟な運行形態を作り出すことができます。

 

デマンド型交通は、民間のバスやタクシー会社が提供するサービスです。自宅から最寄り駅といった、利用者のニーズに合った運行が実現できます。近隣に路線がなく、自力では遠距離移動が困難な高齢者などでも、気軽に利用できるのが特徴です。

 

4. 短編成、多頻度運行への移行
鉄道会社では利用客の利便性向上のため、従来は長い編成で走らせていた電車を、短い編成にして多頻度で走らせるという方向に移行させています。ひとつの路線における電車の本数が増え利便性が向上するため、利用客の回復が期待できるアイデアです。

 

もちろん、本数を増やすことで、利用客数のみならず運行費用や人件費なども増加するため、採算性を考慮した運行計画が重要となります。

 

5. 第三セクターへの転換
第三セクターとは、民間企業と地方自治体が共同出資して事業を営む企業のことです。国が運営する公企業を第一セクター、民間企業を第二セクターと呼びます。第三セクターは、第一・第二に属さない企業で、地方自治体が積極的に参画する点が特徴です。

 

第三セクターでは、地方自治体の持つ地域性と、民間企業のノウハウの両面を生かした、積極的で柔軟な施策を行うことで、地域住民のニーズに合ったサービスを提供できる可能性があります。

 

6. 貨客混載
人を運ぶのはバスや電車、荷物を運ぶのはトラックや貨物列車といった区分を解消し、1つの交通手段に統合するのが貨客混載です。例えば、路線バスが乗客とともに荷物を運ぶことで収益性を改善できれば、赤字路線だからと廃線にする必要もなくなり、利用者にとっての利便性が維持できます。

 

利用客減少にともなう公共交通に対する収益性の改善はもちろん、エネルギーの低減による環境負荷の削減や、宅配業の人出不足の解消にも役立つと考えられます。

 

7. 補助金制度
補助金制度は、収益性の問題で運行維持が困難な民間の鉄道やバス会社に対し、路線を維持するために自治体や政府が補助する制度です。利用者減少によって存亡の機に立たされる地方の鉄道・バス会社の多くが路線存続のために補助金制度を利用しています。

 

鉄道やバスなど、公共交通の運営は地域の生活に欠かせない公共性の高い事業であるため、国や自治体は積極的に支援をしていますが、あまりに収益性が悪い場合は、支援が打ち切られる可能性もあります。

 

8. 運賃の値下げ・値上げ
交通難民が生まれる背景にあるのは、利用客の減少にともなうバスや鉄道会社の採算性の悪化です。それを改善する対策として、運賃の値上げや値下げを機動的に行うことも、会社の施策としては重要です。

 

運賃を値上げすれば、バスや鉄道会社の利益率は上がり、収益向上が期待できますが、利用客離れを引き起こす可能性もあります。それに対し、運賃を値下げすれば、会社の利益率は下がりますが、利用客の回復が見込まれる可能性があります。運賃改定で値上げと値下げのどちらが有効かについては一概には言えません。路線それぞれの状況に合わせた対策が必要になります。

交通難民を救うため、会社や各自治体の取り組みに期待

交通難民を救うため、会社や各自治体の取り組みに期待

交通難民は、利用客の減少により経営が悪化した電車・バス事業者が経営を立て直すために赤字路線を廃止していく過程で生まれています。自身の交通手段を持たない年少者や高齢者・障害者などが移動に困ることがない社会を作っていくための今後の取り組みに期待しましょう。

 

地方の事業者と比較して、3大都市圏の私鉄大手は概ね安定した経営を続けています。コロナ終息後を見据えて私鉄関連株に注目するアナリストも増えています。これから株取引を始めるのであれば、楽天証券に口座を開いてみることをおすすめします。

このテーマに関する気になるポイント!

  1. 交通難民とは?
    自分自身で交通手段を持たず、移動は公共交通に頼らざるを得ない人のことです。主に年少者や高齢者、要介護者や障害者などを指します。

  2. 交通難民が増えている原因は?
    人口減少や自家用車の普及にともなう、バスや鉄道の採算性悪化が根本的な原因です。不採算路線の本数が減ったり、廃止されたりすることによって、自家用車など他の交通手段を持たない住民の利便性がさらに低下することが問題となっています。

  3. 交通難民を救う取り組みにはどんなものがある?
    例えば、地方自治体が運営するバス(コミュニティバス)や、予約があるときだけ運行するデマンド型交通などがあります。
  • 世良真貴男さん

    あらゆる不安を安心に変えるリスクコンサルタント。年間200組以上を担当し、顧客の資産を最善化するカウンセリングを行っている。

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世良真貴男
この記事を書いた人
ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士)/リスク・コンサルタント/相続診断士(相続診断士協会)
世良真貴男

※本著者は楽天カード株式会社の委託を受け、本コンテンツを作成しております。

あらゆる不安を安心に変えるリスクコンサルタント。年間200組以上を担当し、顧客の資産を最善化するカウンセリングを行っている。

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